携帯を家に忘れた。

夕方帰宅すると、友人Fからの着信とメールが届いていた。
「ごめんごめん、携帯忘れてて。何だった?」 と 1時間遅れのメールを打ったら
「病院の帰り動けなくなって、迎えに来てもらおうかと思ったけどタクシーで帰った」

Fは持病があり、定期的に通院している。 
検査に強い薬を使うのだろうか? 前にもこんな事があった。 今日も具合が悪そうだ。

今朝、「大丈夫か」 とメールを打ったが すぐには返ってこなかった。
しばらくして電話してみたが、電話にも出ない。

出勤しても気になるので、部長に外出許可をもらい様子を見に行った。
家に車がないので安心した (ああ、会社に行ってるんだな)
でも連絡は取れないままなので 会社まで行ってみることにした。
(こんな時に限って、会社の場所は知ってるのに名前も電話番号もわからない)
小雨の中 走りながら、家に車がなかったのは、昨日病院まで乗って行って
乗って帰れなかったから、家にないのではないか? と 思うようになった。
・・・もしかすると、家の中で倒れてる?

会社の場所だと思うところまで行くと、 会社が なかった。 
―― が、これは単純に私の思い違いで、ルートを間違えていただけだった。
―― けれど、
全く連絡がとれず、家に車も気配もなく、会社まで跡形もない小雨混じりの冷たい朝
もしかすると、ここはFのいない世界なのかも知れない  いや、もともといなかったのか? 
それとも私が 昨日までとは違う世界を走っているのか・・  なんて思いさえよぎる。

来た道を帰り、また違う道を走り、やっと見覚えのある小さな会社の前についた。
濡れた上着を脱いで、会社のドアを開けると ―― いた。
受付の人は私に気付いたが、私は姿だけ確認するとそのままお辞儀をしてドアを閉めた。
後で、メールや電話に応答しなかった訳がわかった。
「 携帯を会社に忘れてた。」 

まったく、人騒がせな。  心配して、損してないよ。 
私が倒れたら、探すの 一回 貸しね。