風の噂でストップウォッチのことを知り
丹下が私の机の上にメモと、自分のストップウォッチを残していた。
「ごめんなさい。とりあえず私のストップウォッチをお使い下さい。」
白くて丸っこいストップウォッチには
ディズニーキャラクターのシールが貼られていた。 
・・可愛いやつ。
でも、今ストップウォッチを必要としているのは 私より君のはずだから。

   *  *  *  *  *

バブルへGO!の1990年、私は南海放送に入社した。
前年一緒に就職活動した友人共々、放送局に入ることができた。
先に買った友人が 「 これいいよ 」 と薦めてくれたストップウォッチ。
初給料で買ったんだっけか、私にはまだ高い買い物だった。
初めてのラジオの声出しは 「 思い出のリズム 」 という番組だった。
全部の曲がかかるように、Qシートには 細かく秒数を書いた。
ニュースが時間内に収まるように 左手にストップウォッチを握って時間を計った。
時々行方不明になったけど いつしかコロンと戻ってきていた。
大事にしていたとは 言い難い。
でももう会えない気がする今、君と過ごした10数年を思う。 
私も成長したはずだし、そろそろお別れの時期が来たのかもしれないね

   *  *  *  *  *

丹下はストップウォッチと一緒に 「 おわびに 」 と
いかにも手作りの スイートポテトを置いていた。
・・可愛いやつ。 
などと思っている所へ本人が現れた。
「 寺尾さーん、ホントにすみません。これお詫びに食べてくださーい。」
「 まさか毒が入ってるんじゃないだろうな?」
「 鼻○ソ 混ぜときました(笑)」
「 ・・・ 」

     返り討ちにあってもいい。
     黒帯丹下を、討つ。