自民党の敗因は『ドブ板選挙』の”弱体化”にあり

オピニオン室

参院選の敗戦は自民党県連に大きな衝撃を与えています。県連の幹事長と常任副会長が先週(7月30日)、責任をとって辞任、『自民党愛媛県連再生会議』を立ち上げ、敗因の分析と共に、今後の選挙の戦い方などについて議論することになりました。

自民党公認のらくさぶろうさんは、野党統一候補で無所属の永江孝子さんに8万6809票の大差をつけられ、3年前の参院選の山本順三さんの得票に比べ7万8374票も減らしました。

市町別にみると3勝17敗。敗因はどこにあるのでしょうか?

自民党が勝利した3つの自治体のうちの1つ、上島町は保守土壌の強固な地域です。

先週、上島町を取材しました。自民党が”踏ん張った”地域から探る、自民党県連『失敗の本質』です。

◆「期間が短かった」。しかし、それ以上の敗因が・・・

上島町の有権者数は5749人で、全県に占める割合はわずか0.5%、選挙の勝敗に与える影響は数の上ではわずかです。

しかし、投票率は69.46%と県内で最も高く、らくさぶろうさんが1997票、永江さんが1762票で、県内で自民党が”総崩れ”になる中、存在感を示しました。しかし、私のこの表現に、上島町長の宮脇馨さんはいきなり、”異”を唱えました。

宮脇さんは、”自民総崩れ”という私の表現に違和感を感じるといいます。「もともと永江さんが先行し、らくさぶろうさんは追う立場。追いつき、追い越すのが今回の選挙の構図だった。”崩れた”のではなく、自民は票を獲りにいかなくてはならない立場だった。なのにその基本戦略がしっかりしていない印象を受けた」。

宮脇さんが疑問視するのが、①動員数を重視する各地の集会 ②安倍首相や菅官房長官の応援に代表されるパフォーマンス重視の動員、の大きく2つです。

例えば、責任を取って辞任した井原巧常任副会長のお膝元の四国中央市では、4000人規模(といわれる)集会で盛り上げましたが、実際には永江さんが1万7731票、らくさぶろうさんが1万5666票で、集会がどれほど票に結び付いたか疑問です。

大票田の松山市も同様で、相次ぐ”大物”の来県に、自民党は大いに盛り上がったかに見えましたが、ふたを開けてみると4万票近い大差をつけられ負けていました。

宮脇さんは「自民党は『ドブ板選挙』が出来なくなっているのではないか」と心配します。

『ドブ板選挙』というと、一般に悪いイメージを持ちますが、宮脇さんはドブ板選挙を「選挙の基本はフェイス・トゥー・フェイス。どれだけ多くの人を、どれだけ深く大事にするかが大切。人の気持ちを掴み、信用してもらうには、ドブ板選挙が重要な役割を果たす」と説明します。

もちろん、そのためには時間が必要です。らくさぶろうさんが永江さんより、実質的な選挙活動期間が短かったのは、敗因の1つといえます。

◆なぜ?れいわ新選組は議席を獲得できたか

しかし、時間が全てを解決するのでしょうか。

少ない時間で、パフォーマンス型の選挙戦略を重視した「れいわ新選組」は、なぜ、ここまで有権者に支持され、議席を獲得できたのでしょうか?

宮脇さんの回答は明快です。「それは有権者が”共感”したから」。

らくさぶろうさんが各地域で訴えた”政策”と”言葉”に足りなかったのが、”共感”だったのでしょう。

”政策”はブレーンを務めるべき県議、つまり、県連に責任があり、”言葉”はその政策を自分の言葉で分かりやすく、情熱を持って説明すべき候補者、つまり、らくさぶろうさんに責任があったといえます。

◆上島町でもじわじわ進む保守層の構造的変化

自民党の上島町生名支部幹事長で、上島町議会の議長を務める池本光章さん(64)も、『ドブ板選挙』を”選挙の基本のキ”と位置付けます。そして、「次回、時間をかけてドブ板選挙をやらせてもらえれば、野党候補にダブルスコアをつけることは難しくない」(今回は235票差)と自信を持って答えます。

しかし、池本さんはこのところの選挙で、町内に起きているある”変化”に気付いています。

”家族の票がまとまらない”のです。

以前は、世帯主(いわゆるお父さん)に頼めば、家族はまとまって投票してくれていました。この家族単位(おじいちゃん、おばあちゃんを加えればさらに増える)の票を積み上げるのが、自民党票の基本単位でした。

ところが、最近は「わしは投票するけど、嫁さんの票は分からんぞ~」と言われることが増えたといいます。

個人の投票の自由度が増し(当たり前と言えば、当たり前なのですが・・・)、候補者と有権者の”個と個”のつながりの重要度が増しているといいます。

『ドブ板選挙』をしっかり戦いつつ、いかに候補者の個性(分かりやすく言えば、キャラ)を、有権者個人に売り込むかが大切だといいます。

こうした”個と個”のつながりを、加速度的に拡大してくれるツールの1つがSNSといえます。

従来型(名簿型)の組織戦から、IT社会に適応した組織戦への適応も課題の1つです。

◆保守にも新世代が・・・。議員個人VS政党組織

村上要二郎さん(44)は、3年前の町議選で初当選を果たした1期生です。自民党員ではありませんが、参院選ではらくさぶろうさんの応援演説に参加するなど、保守系議員として選挙を戦いました。

参院選を通して「単純に自民党だから勝てるという時代ではなくなったと感じた」と話します。

若手議員の村上さんも「ドブ板選挙は絶対に必要」と断言します。その上で、「自分の考えや政策を聞いてもらって、もし応援できないというのなら、それは仕方ない。考えに共鳴してもらえる有権者に支持してもらえれば、それでいい」とし、自分の考えを曲げてまで、組織の考えに一致させる必要はないのではないかと考えています。

そうした考えが、自民党には属さない、現在の保守系無所属という立ち位置につながっているのです。こうした傾向は今後、地方議員や地方自治体の首長に増えてくるのではないか、と村上さんはみています。

◆保守政党に『現在』、何が求められているか?

愛媛県内で唯一、フェリーを使わないと行くことができない自治体、上島町で聞いて印象的だったのは「生活を最後に支えてくれるのは自民だという考えがまだ、ここには残っている」という言葉です。これは歴史を通じて培われた地域住民の信頼なくして、出てこない言葉でしょう。

保守政党にとって、こんなに嬉しい期待の言葉があるでしょうか?

『過去』から受け継がれた信頼を、適切に修正しながら『未来』につなげてゆくのが、自民党愛媛県連の保守政党としての『現在』の役割ではないでしょうか。

(シリーズ「自民党県連の研究⑤」の位置付けで取材・執筆しました)

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来週火曜日(13日)の私の『ニュースの深層』は、お盆休みをいただくため、お休みです。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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