解説速報~岸田新総裁の”正統性”

オピニオン室

自民党総裁選の第一回投票の結果をみて
思わず、うなりました。

下馬評と異なり
トップは256票獲得した岸田さん。

2位がわずか1票差ではあるものの
255票の河野さんだったからです。

「これが自民党の権力闘争の凄みだ」。
そう感じました。

◆2位、3位連合は正統性に欠ける

一般に投票が行われるまで

・1回目の投票では
河野さんが地方票で優位に立ち
トップに立つ

・しかし、過半数に届かないため
決選投票で「河野VS岸田」の争いに

・その場合、政策的に近い保守連合で
岸田さんと高市さんが協力、
つまり2位、3位連合で
岸田さんが逆転してトップに立ち
新総裁に

という見立てが多かったように思います。

民主主義は最後は”数”なので
それはそれでルールにのとった
「決定」なのですが、
権力の”正統性”に疑問符が付きます。

全国の党員票の得票率は
河野さんが44%
岸田さんが29%、
決戦投票では、この数字の価値が
著しく下がるというルールがあるからです。

例え1票差とはいえ
岸田さんが1回目の投票も、決戦投票も
河野さんを下したという結果は
権力に”正統性”を与え、
権力の”重み”が異なります。

この票数は、
明らかに狙って奪い取った結果だと思います。
偶然ではありません。

二階幹事長の言葉を借りれば
「プロ」の権力者は
”数”を偶然に頼ったりしないのです。

私は愛媛で25年間、政治を取材してきて
そう感じます。

◆勝負は石破さんが左右した?

県内で政治家といわれる人なら
安倍元首相が
「絶対に石破さんだけは総理にしたくない」
(県内のある自治体の元市長)
という感情を持っているのは
知っていると思います。

もちろん、今回は
石破さんは総裁候補ではありませんが、
河野さんがタッグを組んだ時点で
安倍さんの「反河野」姿勢に
火がついたのではないでしょうか。

もちろん、好き嫌いの問題だけでなく
河野さんの政治的な立ち位置、
原発エネルギー、皇室の未来、
年金などの生活保障といった
国の骨格となる政策が
安倍さん流の保守の立場からは
受け入れられなかったという面も
大きかったと思います。

私は実際に取材していませんが、
総裁選の経緯を報道でみる限り
安倍さんと麻生さんが票を”読み切った”と
感じています。

◆自民の凄みはこのシーンに凝縮

この時、「総裁選」の演者たちは
どんな気持ちだったんでしょうか?

私には想像もつきません。

菅さんは、解散という
抜こうとした「伝家の宝刀」を
押さえつけられて、
抜けなかったのですから・・・

その「伝家の宝刀」を実質、菅さんに
与えたのは二階幹事長です。

去年、菅首相誕生の流れを一気に作った
二階さんと
当時、安倍首相の後継候補最有力だった
岸田さんについて
ある政権与党幹部から
こんな話を聞いたことがあります。

「二階さんが菅さん支持で
一気に動き出した時、
岸田さんは東京にいなかった。
岸田さんが東京に戻ってみると
すでに菅さんで流れが出来ていた。
東京にいなかったのは
岸田さんにとって致命的だった」
(政権与党幹部)。

二階さんは新総裁が決まったあと、
最終盤に壇上に登場し、
「役員任期は新総裁が決まるまでと
規則で決められている。
人事は新総裁に一任したいと思いますが
ご異議ありませんか?」と
決まったセリフを淡々と口にしました。

幹事長職を”宿敵” 岸田さんに
差し出す役割を演じたのです。

まさに、「プロ」の権力者だけが演じられる
”一寸先は闇”
のストーリーだったと思います。

*******

さて、いよいよ衆院選です。

自民党は党内で、
これだけの闘争を繰り広げながらも
選挙になると一枚岩で戦ってきます。

岸田さんの権力の”正統性”は
現在は自民党内部だけのもの。

日本のためには
野党にも頑張ってもらわなくては
なりません。

※16時55分発信

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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