選挙とノーサイドの精神、そして「隠れた有権者」

ニュース解説

選挙が終わったら、よく「ノーサイド」という言葉が使われます。

 

どの候補を応援しても、当選者が決まれば「ノーサイド」。

 

有権者それぞれが信念や考えに基づいて、そして民主主義のルールにのっとって応援したのだから、勝負が決まれば、みんなで決めたリーダー(代表者)とともに、みんなで協力して新しい社会を創ろう。

 

そういう精神を、スポーツに例えているのだと思います。

 

南海放送が初めて制作したYouTube選挙特番『ネットで生放送!今治新市長、今夜決まる』(2月7日夜10時から放送)の、愛媛県の政治史における意義について考えます。

 

▼『ネットで生放送!今治新市長、今夜決まる』ディレクターズカット

(3時間40分の番組を15分58秒に再編集)

今治市長選特番!ディレクターズカット

 

番組の最大の特徴は、選挙の投票終了後、開票が始まり、当選者が決まるまでを生放送で途切れることなく、開票所からのリポートや両陣営の様子なども交えながら伝えた点にあります。

 

 

スポーツでいえば、試合の開始から”勝ち負け”が明らかになり、勝利者インタビューまでを生放送で解説を交えて伝えたことになります。

 

 

◆視聴回数は当日、投票した有権者の2割に

 

こうした番組はTVではありそうで、ありませんでした。

 

地方自治体の首長選挙が行われるのは日曜日。投票締め切りは夜8時で、開票作業は9時ごろから始まります。

 

この時間帯は地方局では番組編成上、まとまった時間をローカル番組に充てるのが難しく、選挙特別番組は、一日の番組が一区切りした深夜帯で放送するしかありませんでした。

 

ところがネット時代を迎え、YouTubeチャンネルなどを使えば、自由にのびのびと番組を企画、制作できるようになりました。番組内で杉作J太郎さんが連発していた”やる気”さえあれば、『ネットで生放送!今治新市長、今夜決まる』のような番組は、TVに比べてはるかに低予算で、柔軟に制作できる環境にあります。

 

その結果、勝負の決定的瞬間、スポーツでいえば、いつ起こるか分からない最もドラマチックな決定的瞬間を逃すことなく伝えることが可能になったのです。

 

 

『ネットで生放送!今治新市長、今夜決まる』の視聴回数は16日現在、1万6,100回を超えています。

 

この数字は今治市の有権者数の1割を大きく上回り、当日投票した有権者数の2割に達しています。

 

◆番組内で現れた”隠れた有権者”

 

制作者の立場からみると、この3時間40分に及ぶ生放送では、予想外の「演出効果」が生まれ、番組の大きな魅力になったように思います。

 

 

それぞれの候補の応援団が、番組内で”予期せぬかたち”で現れたのです。

 

インタビューでハッキリと言わないにも関わらず、言葉の端々にどちらを応援したか現れる。また勝負の行方がみえてくるにしたがって、徐々に表情に誰を応援したかが現れる・・・。

 

これまでの選挙番組では、応援団は各陣営の祝勝会場に陣取っていました。しかし、この番組で、応援団は市民一人ひとりの中に、紛れ込むように存在していたことが改めて分かったのです。

 

これは3時間40分の生放送という、時間をかけた番組だからこそ可能になった「演出効果」でした。生放送の熱気が、時間をかけて有権者の隠れた本心を溶かし、真実が言葉の端々や表情から溢れ出たのです。

 

 

こうした”隠れた有権者”こそが選挙結果を左右し、選挙を通じて今治市の未来の方向性を決めたのです。

 

◆この番組が今後の選挙に与える影響(と期待)

 

こうした番組が当たり前になってくると、どんな変化が県内の選挙に生まれるでしょうか?

 

もしかすると、もっと明確に自分の支持する候補者を明らかにする風潮が生まれるかもしれません。

 

候補者のこの政策に自分は賛同する。だから、この候補者を応援する・・・とか、自分の住む町を、こんな街にしたい。だから、あの候補者に投票した・・・など、自分の政治的な立場を表明することへの抵抗感、ハードルが低くなる可能性があります。

 

未来の『ネットで生放送!今治新市長、今夜決まる』のような番組では、それぞれの支持者(応援団)が番組に登場し、自分の住む町の未来について議論する・・・なんてことも起きるかもしれません。

 

◆その時こそ、ノーサイドの精神が必要

 

投票率の下落が止まりません。

 

今治市長選の直近3回の投票率は75.76%、73.00%、59.90%(無投票1回を挟む)で、今回も保守分裂、新旧一騎打ちの激戦といわれながら61.15%、地元では『低調ムードの激戦』と揶揄されました。

 

投票率の下落は民主主義の機能不全につながります。

 

「保守分裂はしこりを残すから・・・」という声も聞きます。

 

有権者が”隠れる”のは、しこりに巻き込まれるのを避ける意味合いもあるのではないでしょうか。

 

一方、しこりを残さないために話し合いで無投票に・・・というような話もありますが、それは本来あるべき姿に背を向ける行為です。

 

明るく、未来へ向かって多様な意見を公明正大に戦わせる。しかし民主主義のルールにのっとって、勝負が決まった後は「ノーサイド」。それが本来、あるべき姿ではないでしょうか。

 

誰が言ったかではなく、何を言ったかを大切にする。

 

そうした未来に、『ネットで生放送!今治新市長、今夜決まる』が貢献出来れば、とても嬉しく思います。

 

次回、どこかの選挙でまた、『ネットで生放送!〇〇新市長、今夜決まる』を制作し、地域の有権者のみなさんとお会いするのを楽しみにしてます。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(55歳)立教大学卒。1988年南海放送入社後、新居浜支局記者、県政担当記者などを経て、報道部長。現在、執行役員報道局長・解説委員長

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