その花は、見えますか

オピニオン室

「相談に来られた方、目の前に活けている花に気づく人はほとんどいらっしゃらない。でも何度かお話ししたり、事件が解決に向かっていくと、お花に気づくときが来るんですよね」-。

女性や子どもへの性暴力や虐待、犯罪被害者の救済に尽力する、ひめはな法律事務所の射場和子弁護士。
愛媛大学教育学部を卒業後、IT企業の経営などを経て47歳で司法試験に合格した、異色の経歴を持つ弁護士です。

「IT企業の社長から弁護士なんて、すばらしいステップアップですね、なんて言われることもあるんですけど、私の場合は、実は病気がきっかけなんです」

インターネットの黎明期、渋谷がビットバレーと呼ばれ、三木谷氏が楽天市場立ち上げたころ。海外にも会社を持っていた射場さんは、男性と交際することもレジャーを楽しむことも“ビジネスにプラスにならないことは悪”と思うほど猛烈に働きました。
足が痛い、体が痛い、そんな体の悲鳴も無視していたある時、朝、自分で起き上がることができず、救急車で病院に運ばれると「手術をしないと、足がこのまま動かなくなりますよ」と言われ、そのまま入院、手術。
会社も仕事も手放し、茫然自失のまま、車いすで松山に帰郷しました。

人目を避けひきこもっていた時、新聞で目にとまったある女性弁護士を訪ね、泣きながら身の上を吐き出すと、
「人生ね、泣いてる場合じゃないのよ。今までビジネスで頑張ってきたんだったら、法律を勉強すれば、社会の違った見方ができるはず。知らないことを知るようになるのは、わくわくするよ」と。

その言葉にしがみつくように、車いすで図書館に行き法律の本を手にしました。
といっても43歳での法科大学院への入学、寮生活。初めて開く六法全書。優秀な若い学生に囲まれ、記憶力の壁と戦いながら、3年間、朝6時から夜12時まで大学に籠って勉強しました。1か月の寮の電気代が800円だったことから、ほんとにここに住んでいるのですか?と大家さんに心配されたこともあったそうです。

「“ひめはな”は、愛媛の“ひめ”と、お花の造語なんですけど、私の原点なんですよ」-。

IT企業の経営者として、激務の日々を送っていた時。自宅からオフィスまでの道のりに桜並木がありましたが、ある年、桜が咲きませんでした。
「今年は桜咲かなかったよね?」とスタッフに問うと、「何言っているんですか。社長、毎日桜が咲いているところを通ってきましたよね。もう散りましたけど、見ませんでした?」と。

「目の前の仕事を一生懸命考えている、ってかっこいいようだけど、咲いている桜さえ見えないような、そういう自分になっていたんだと思ってすごくショックだったんですね」―。

この経験から射場さんは、相談者へのある思いを込めて、事務所のあちこちにかわいい花を活けています。

「事務所に来られた方の目の前に花を置いてあっても、最初来られた時にそれに気づく方はほとんどいらっしゃらない。でも何度かお話ししたり、事件を引き受けて解決に向かってゆく、その過程で、“先生、小さい菜の花かわいいですね”とか、お花の話をされる時が来るんですよね」-。

花に気づいたときが、自分の一歩を踏み出したとき。

その力を信じて寄り添う射場和子さんのお話は、2月6日(土)放送の「ザ・VOICE」(16:00~16:30)で。

番組の中で射場さんは、いま存在が浮き彫りになってきている家庭内での性虐待についても、問題を投げかけています。子どもの性被害の実態を知り、いっしょに考えてみませんか。

(かかわった方からのプレゼント)

記者プロフィール
この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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