今治市のタオル会社、株式会社・丹後はちょっと変わった出自を持つ”老舗”タオル会社です。
社長の丹後博文さんはもともと(そして今も)、保険や不動産業を扱う会社の3代目。仕事を通じて、90年間続きながらも廃業を決意した”老舗”タオル会社の存在を知りました。
タオル業界とは無縁で経営の知識もなく、不安も反対もありましたが、90年間も地域を代表する地場産業を支えた企業が途絶えること、さらに、その中で育った技術が地域から消える事態を防ぎたいと思い、事業承継を決意しました。
事業を引き継いで5年。つまり丹後は、新しく生まれ変わった”老舗”タオル会社なのです。
きょうの解説動画では、丹後博文さんの妻で会社の取締役、主に企画やPRを担当する佳代さんが主人公になっています。
2児の母親目線で開発したタオルの「機能」や女性的な「デザイン」。そして何より、90年の”古木”に、接ぎ木された”若い枝”は5年間で何を学び、コロナ危機にあっても何を守り続けようとしているのか?そういう視点で編集しました。
▼動画解説『ウィズコロナ~今治タオル「目線」と「視点」の転換』
◆コストは資産の場合もある
戦後最大の経済危機、コロナ禍でどんな企業もコスト削減に懸命です。
明らかに日常の惰性で膨らんだコストもありますし、今後の利益の見返りが見込めない費用についてのコスト削減は経済活動上、正当化されるでしょう。
ではコスト削減は、全てが正当化されるのでしょうか?
例えば動画に出てきた、丹後の工場で織機を操作する職人(工場長)。自らも技術を年配の工場長から受け継ぎ、新たに工場長になった経験から「基本はあるが、職人の感覚までは学べない」と話します。
こうした技術は佳代さんによれば、タオルの風合いや肌触りとなって、商品価値に大きく影響するといいます。
この技術(人件費)は資産であり、この資産をコロナ危機だからといって削減すれば、タオル産地の取り返しのつかない損失になります。逆にいえば、この厳しいコロナ禍にあっても雇用を維持するのが社会的な義務といえなくもありません。
◆企業のアイデンティティーを見つめる必要
丹後の従業員は32人。この春、愛媛大学を卒業した福井県出身の塚本和穂さんは、「学生時代を愛媛で過ごして愛媛が好きになったので、ここで就職した」と話します。
丹後は生まれ変わった、新しい老舗企業。
新たに接ぎ木した理由は、丹後の創業の精神になっているように感じました。
『90年の歴史を地元で絶やさない』『タオル産業に新しい息吹を吹き込む』
こうしたアイデンティティーが従業員の数に現れていますし、新卒採用にもつながっているように感じます。
戦後最大の経済危機だからこそ、私たちの存在理由を改めて問い直し、その存在理由を社会の価値と一致させるために「出来ることを一生懸命やる」(佳代さん)べきなのだと、取材を通じて改めて学びました。