「アルツハイマーの奥様を介護している夫の金森さんが、明るいんですよ。悲観的なところがなくて、介護は楽しいっておっしゃっていた。もちろん、日々の葛藤のようなものは当然あったと思いますが」-。
南海放送制作のドラマ「記憶の葉っぱ」が、このたび2020年日本民間放送連盟賞番組部門テレビドラマ番組 優秀賞を受賞、11月3日(火)に再放送されます。
若年性認知症を発症した妻と、その介護をする夫婦の実話をもとにしたドラマは今年5月の放送後、多くの反響を呼びました。
脚本・プロデュースを手掛けたのは、砥部町出身の岩城一平さん。
「金森さんのご夫妻の輝きがハンパなくて。ストーリーはわかっているのに、編集しながら試写しながら泣いてしまう。カメラマンもそう。でも悲しいわけではないんです。佐田岬半島の小さな場所で、たった二人だけで生きているという人生が、普遍的に通じる人間愛になっているところが、ここのドラマの肝なんです」―。
半年前の放送にも拘わらず、私自身、いまでも印象に残っているシーンが2つあります。
金森さんご夫婦が毎日散歩する海岸での、穏やかな2人の表情。
そして、薫ちゃんに声を荒らげてしまったあとの、桝形さん演じる夫一臣さんの表情です。
岩城さんは、“言葉にするとちょっとカッコ悪いんですけど”と前置きしながら
「全部、金森さんの思い出に沿った場所で撮影しています。中学3年の卒業式にラブレターをもらうというシーンがあるんですが、そのままその時の海岸で、その海岸に今も二人で散歩に行っているというロケ場所の統一性は、実はこだわっているんですよ」と笑います。
舞台は、実際に金森さんご夫婦が暮らしているご自宅です。日本の地方のどこにでもある日常のリアリティが、見る側の心に迫ってきます。
そして病気の影響で、失敗をしてしまう薫さんに、つい声を荒らげてしまった一臣さん(桝形さん)の後悔と葛藤の表情。
岩城さんは”2時間ある映画なら2度3度入れたい大事なシーン“とし、
「ドラマという時間の関係で、このシーンは1回きりしか入れられないので、演出家でもある枡形さんに、あれこれ何度も注文を付けてしまいました」と笑います。
病気だとわかっていても、日常の負担に心が追いつめられてしまい、つい出てしまうきつい言葉。発してしまった自己嫌悪。きれいごとだけでは済まない介護のマイナスの感情を、印象的に伝えるために表現にはこだわったと言います。
「そうなるまでわからないという、人間の悲しさのようなところでもあるんです。今そういう家族がそういう状態じゃなかったとしてもこれは誰にでも起こる事なんだいうこと」―。
心理学の研究職を目指し、松山東高から筑波大学に進学した岩城さん。岩城さんの作品には、巧みな心理描写が、伏線となる映像とともにちりばめられています。
純粋にストーリーを楽しんだ1度目。2度目は、岩城さんが仕掛けた「伏線」を探しながら…という楽しみ方もできそうです。
脚本・演出の岩城一平さんへのインタビューは、11月2日(月)の「ニュースな時間」17:45頃から放送します。
「記憶の葉っぱ」は、11月3日(火)9:30~に再放送です。
くどいようですが…9時半は朝ですよ、朝。夜とお間違えなく!