カリスマリーダー後の…

オピニオン室

「愛媛県で栽培する34種類のかんきつの中から、ビールと一番相性がいいものを選びました」-。

【晩柑ウィートエール】(1本580円 ※税別)

梅錦山川からこのほど発売されたのは「晩柑ウィートエール」。
日本一の生産量を誇る河内晩柑のほかに、愛媛産の裸麦と小麦を使用した“愛媛を味わう”ビールです。

県産業技術研究所の協力を得て開発し、去年、イベントや飲食店向けにたる詰めで販売したところ好評だったため、今年は家庭でも楽しめるように、330ミリリットルのボトルも製造しました。

ピール(皮の部分)の処理をさらに細かくすることで、去年より風味を豊かにしたそうです。

ラベルのデザインは、広島でデザインを学ぶ女子大学生が手がけました。
瀬戸内の香りいっぱいの、素敵なお土産にもなりそうです。

販売は8月11日(火)から、県内の酒店やデパートで販売されますが、限定1200本なので競争率が高いかもしれません。

製造元の梅錦山川(四国中央市)は、創業150年の愛媛を代表する酒造会社です。

4年前、四国中央市の梅錦山川が神戸に本社がある全国最大手の酒造会社、白鶴酒造の完全子会社になるというニュースは、衝撃をもって迎えられました。
当時の梅錦山川は、愛媛を代表する“酒造会社”を超えて、愛媛の“文化の担い手”という存在でもあったからです。

(藤原康展社長)

経営権が創業家から移譲されて最初の社長になった、藤原康展さん。
白鶴酒造では、東京、名古屋、大阪での営業や、本社の人事、企画部門などあらゆる分野に携わってきました。

「地元紙のトップニュースになるほど注目されていることに、責任の重さを感じました。愛媛の方には、神戸のお酒を持ってくるんじゃないかと不安に思われたようです。梅錦であり続けるためには、味も従業員も変えることなくこの地で作り続けることが大前提でした」と、当時を振り返ります。

近年の中小企業白書でも、地方企業の課題として、事業承継が大きく取り上げられています。
梅錦山川は後継者難からの事業承継でしたが、経営資源の引継ぎはスムーズに進んでも、組織運営の在り方は大きく変わります。

創業150年、5代続いた山川家の強いリーダーシップのもと“引っ張ってきた”経営から、大企業の一員として“自らが価値をつくる”という社員の意識変革が求められるようになります。

社員に気さくに話しかける藤原さんが、就任当初もっとも留意したのは、社内の風通しを良くすること、でした。
小さなことですが、と前置きしながら、ひとつの例を教えてくれました。

「月に1回の会議を、当時は“報告会”と言っていました。“社長への報告”会です。名前を変えただけと言われるかもしれませんが、これを“全体会議”に変えました。伝えたいこと、聞いてほしいことなど、部署をまたいでみんなが“共有する”ということです」。

いい意味でも“閉ざされた”なかで醸成されてきた、梅錦のブランド力。
藤原社長は、ブランドを築いているのは、社員一人一人であることを意識してもらうことが大事だと言います。

「ちょっと買い物に出たときに、自社の商品が棚のどこに並んでいるか見る、ラベルが裏向いていたら正面を向ける、陽にあたってしまい色が薄くなっていたら買い求めてくる、とか。みんな外に出れば営業マンですよ、見えない看板をしょっているんだと。そういう意識は持つよう伝えています。」

(養殖ガキの殻を撒いた水田で育てた米を使用し、瀬戸内海の里海を守る活動に参画した「里海の環」)

知り合いが一人もいない中、愛媛に赴いた4年前。
今ではスーパーに買い物にいくと何人にも声をかけられます、と笑う藤原社長ですが、今も変わらず心掛けていることがあります。

「社員の話をきき、私も自分の思いを伝える、さらに社員が自分なりの形にして戻してくれる。今回の“晩柑ウィートエール”の誕生もそのひとつです。新しい取り組みをしようと私が投げたことに対して、製造の人たちが中心となって進めてくれました」。

カリスマ的リーダーのもと成長してきた企業が、その後、どのような組織文化を醸成し輝いていくのか。事業承継のひとつのモデルとして注目されます。

記者プロフィール
この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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