海賊の城が泣いている・・・災害で”満身創痍”

オピニオン室

先週木曜日(23日)、西日本豪雨以来、2年ぶりに今治市沖の村上海賊の島、能島城跡『上陸&潮流クルーズ』が個人客向けに再開されました。

城フリークら13人が日本で唯一という、専用船を使ってしか渡れない海城に上陸、日本最大の海賊と呼ばれた能島村上海賊が瀬戸内を舞台に、歴史を駆け巡った日々に思いをはせました。

「日本で唯一無二の城だと思う。上陸できただけでも有難い」(東京からの観光客)。

「当時の海賊の息づかいを感じる」(兵庫からの観光客)。

城フリークらの心をしっかりとつかんだ能島でしたが、一方で、こんな声もありました。

「災害で全部、見れないのは残念。島の全周を見て回れたら、もっと良かったのに・・・」(兵庫からの観光客)。

西日本豪雨災害の復旧工事が終わり、やっと上陸を許された能島ですが、今年の7月豪雨でまた、新たな土砂崩れが発生、観光に悪影響を与えるのはもちろん、私たちに課題を突き付けています。

「災害多発時代の文化財保護」。

海賊から、”忘れてくれるな”と訴える声が聞こえてきそうです。

◆取材対象から外れた、もう一つの災害現場

全国的に貴重な海賊の城、国指定史跡「能島城跡」が2年前の西日本豪雨でどのような被害を受け、さらに今年の7月豪雨でどの程度、傷んだのか外見からは分かりません。

私は2年前の西日本豪雨で、被害を受けたことすら知りませんでした。

しかし上陸ツアーが再開され、被害を目の当たりにすると、問題の深刻さと同時に、「災害多発時代の文化財保護」がいかに重要なテーマであるか考えさせられました。

◆ツアーの目玉ポイントにも入れず・・・

上陸してすぐ目に入るのが、大きな土砂崩れ現場とビニールシート、さらに土砂に埋もれた遊歩道です。

赤い線で丸く囲った部分が2年前の西日本豪雨で崩れた場所、シートで覆った部分が今年の7月豪雨で新たに崩れた箇所です。

土砂が現在も遊歩道を覆っているため、通行が出来ない状態です。(場所は南部平坦地と三之丸の間の遊歩道)

能島城跡の面積は1万7,829平方メートル、島の全周は846メートルで、ツアーも45分あれば終わる小さな島。

この小さな島のいたるところに崩れた跡があります。

西日本豪雨で被害を受けた部分は土嚢を積み上げるなどして修復・補強し、今後、草などが生えて復元されるのを待ちます。

しかし今年の7月豪雨で、新たに土砂崩れが大きく6か所発生。西日本豪雨災害から2年間かけてやっと立ち直り、ツアーが再開されたものの依然、立ち入り出来ない場所があります。

例えばツアーポイントの目玉の1つで、”岬”のように細く突き出た「矢櫃」と呼ばれる場所は、岬の片側が海に向かって”ずれ落ち”ています。

東南出丸から眺める、小説「村上海賊の娘」のワンシーンで有名になった鯛崎島も、土砂崩れを起こしています。

◆全国の多くの城が災害被害 ”お城、受難時代”に

こうした被害は能島城に特別に降りかかった災難ではなく、全国でも多くの城が被害に会っています。

災害多発時代は、”お城、受難時代”でもあるのです。

熊本城が地震で大きな被害を受けたのは強烈に印象に残っていますが、例えば宮崎県の佐土原城や、福岡県の基肄城なども豪雨災害で被害を受け、今も見学や入場に規制が続いています。

日本100名城を全て訪れ、今回、能島城が含まれる続日本100名城のスタンプラリーに挑戦している自称”城フリーク”の方に教えてもらったのですが、例えば熊本城では「復興城主」として、復旧に役立つ寄附を募る制度があるそうです。

HPなどによると、「復興城主」からの寄附額は去年10月末現在で104,910件、21億5,500万円あまりに上ります。

こうした「城主証」がもらえるなら、私も「能島城主」になってみたいなぁと思いました。

城フリークの方も、能島城の全国的な知名度や物語性、ユニークさからみて、訪れた人から、例えば能島に渡るクルーズ代金2,000円に、復旧目的の寄附額をいくらか加えて徴収しても、理解を得られるのではないかと話していました。

◆本格、復旧はまだまだ先に

今治市文化振興課は文化庁などと協議しながら極力、人為的な手を加えず、元の状態に近いかたちで、災害に強い保存・復旧策を策定し、2023年度から工事にかかりたいとしています。

船に乗って訪れるという特別な体験、海賊というアウトロー的な響き、ツアーは45分と散策にほどよい時間など、魅力的なツアーである能島城跡『上陸&潮流クルーズ』。

2年ぶりのツアーに参加した城フリークらも満足気だっただけに、海城の魅力を保ったうえでの復旧と、今後の災害への備えが必要と感じました。

さらに、これだけ災害が多くなると、地域の文化財の保存に対してわれわれ県民も無関心ではいられません。もちろん自分たちの身を守ることが最優先ですが、可能な範囲で、例えば、お城愛好家であれば寄附などのかたちで、文化財を自分たちで支える意識も必要なのではないでしょうか。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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