歴史に幕!「やまこうどん」のナゾに迫る・・・

オピニオン室

1954年(昭和29年)、宇和島市に開店し、早朝5時に店を開け、4時間ほどでうどんが売切れたら店を閉める・・・という”知る人ぞ知る”うどんの人気店、「やまこうどん」が来週22日、親子2代66年の歴史に幕を降ろします。

平日の早朝にお客が列を作り始めるこのうどん屋には、暖簾もなければメニューもありません。メニューは、この「やまこうどん」のみ。

そもそもなぜ、”やまこ”うどんなのかすら、ナゾです。

見た目はフツー、380円!

このフツーのうどんが、なぜ、”イジョー”な人気を保ち続けたのか?好奇心をくすぐられて、きのう(13日)開店前の午前3時半、仕込み作業から取材しました。

◆まず、暗闇で探すの大変!

私の場合、JR宇和島駅前から出発。写真は午前5時半ごろの駅前ですが、3時半ごろは真っ暗。歩いて5分かからないといわれましたが、看板も暖簾も本当に何もなく、民家の中に”埋もれて”います。見つけるのに手こずりました。たまたま2代目店主の島内純代さん(69)が、店の前で朝の運動?らしき背伸びをしていて、私に見つかりました。

島内純代さんは1男3女の4人兄弟の末っ子。兄とお姉さんの1人が県外に出たりし、夫が「マスオさんとして家に入った」(島内さん)ため、結果的に母親の仕事を引き継ぐことになりました。15年前から近くに住む、もう1人のお姉さんに手伝ってもらっています。

島内さんの初対面の印象は「元気がいい人だな」。質問に間髪入れず、テキパキ答えます。

まず最初のナゾ、なぜ、”やまこ”うどんなのか聞くと、店を始めた母親の名前が山小一三(やまこかずみ)さんだからだそう。意外と単純です。

母親が店を始めた理由は、父親が勤め人で、4人の子どもを育てるために、家計の足しにと自宅の土間で、行商人相手に食事の提供を始めたのがきっかけだったそうです。

昭和30年代~40年代といえば、高度成長期前夜から真っただ中。鬼北地方などからたくさんの商売人が早朝、仕入れに宇和島市にやって来ていたそう。

その人たち向けの”早朝の需要”に、母親の一三さんは目を付けたワケです。

◆”2つのナゾ”の答えに通じるヒントを発見!

なんと!今どき、厨房にカマドがあります。3つあるカマドのうち現在、使っているのは右端の1つ。出汁をとるのに使います。

真ん中のカマドは出汁の保温用に、左端は現在はガスですが、うどんを茹でるのに使います。

出汁をとる時は、こんな感じに・・・

うどんを茹でる時は、こんな感じに使います。

◆カマドの秘密①味覚に影響

私の印象が入りますが、このカマドが味に大きく影響していると感じました。

食べると分かるのですが、とにかく出汁が熱い!!! 食べ終わるまで、まったく冷めません。

店には冷房がなく、扇風機のみ。団扇はあります。ハフハフ・・・、ハーハーいいながら食べます。口の中も体も”燃える”ように熱い・・・。

しかし、この”燃える”ような出汁には、たっぷりと昆布と削り節のうま味が、沁み出しているみたいです。

島内さんの話によると、カマドとガスを比較すると、昆布の”開き方”が違うんだそうです。カマドの方がよく開き、爪を立てても柔らかいといいます。

さらに、削り節は地元の魚のミックスといいます。見るからに美味そう。

個人的には、うどんを食べるというより、出汁をうどんに絡めて食べている・・・という美味しさです。

さらに、地元の小エビの入ったかき揚げと、じゃこ天、蒲鉾が宇和島の味を押し出します。

◆カマドの秘密②閉店の理由の1つ

カマドはレンガ造りで、維持も修理も大変なんだそう。そもそも修理する職人が見つけにくいといいます。

母親の代から66年間続くカマドを、未来へ向けて維持するのはほぼ不可能です。

「そろそろ、かな・・・」。

そう島内さんが思っても、不思議ではありません。

◆パズルのピースのような小さな「変化」、その積み重ねが閉店の理由

「やまこうどん」は、店の唯一のメニュー。

このメニューを作るのに必要なピースは、カマド、うどん、昆布、削り節、醤油、じゃこ天、蒲鉾、ネギ・・・と母親から島内さんに引き継がれ、2代66年間続きました。

しかし、その一つ一つピースはず~っと66年間、同じというわけにはいきません。

例えば、ずっと使っている醤油は、一升瓶に入っていたのがペットボトルに変わりました。

「中味は一緒というけど、やっぱりね・・・」(島内さん)。

66年間も続く企業は滅多にありませんから、商品によっては経営者が変わったケースもあります。

全て「中味は一緒」、「恐らく食べても違いは分からない」(島内さん)といいますが、島内さんの心の中で、この『変化』の積み重ねが、一つのおぼろげなラインを超え、「そろそろ・・・」となった、それが閉店の理由です。

閉店日は7月22日と輪郭がはっきりした、まるで満月のようですが、閉店の理由は、輪郭がぼやけたおぼろ月のよう・・・という表現になるでしょうか。

◆満月はまだまだ元気いっぱい。次の人生を!

やまこうどんを食べて60年、母親の代、高校生の時分から通っているという常連の一人は、島内さんを「お母さんよりシャキシャキしとる」といいます。

やまこうどんの40年来のファンは、「ここのうどんは美味いとか、そういう次元じゃない。もう日常そのもの。癖」と笑います。

実は、やまこうどんの最大の魅力は、島内さんのシャキシャキした明るい性格だと感じました。閉店の理由は”おぼろ月”ですが、島内さんの性格はまさに”輪郭のはっきりした満月”。この性格を慕ってお客が集まっています。

「母親が引退したのも69歳、私も今年、69歳。偶然だけど・・・」(島内さん)。

島内さんは、やまこうどんを引退しますが、その元気で明るい性格で、次の人生をスタートさせます。「ノンビリしたい」(島内さん)といいますが、恐らくじっとしていられないような気がするのは、私だけでしょうか。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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