コロナが襲った被災地、その実情

オピニオン室

西日本豪雨から間もなく2年。

被災地はさらなる災害、コロナ危機に見舞われました。

◆復興の象徴、復活したお好み焼き屋を襲ったコロナ危機

西日本豪雨で跡形もなく流された、今治市のしまなみ海道沿いの島、大三島のお好み焼き屋「たたら」。今年2月、一年半ぶりに80歳と72歳の夫婦が再建し、再スタートした途端、コロナ危機が襲いました。

付近で復旧といえば砂防ダムぐらいで、人々の生活に直接、関わる復興は進んでいません。

そんな中、ポツンと一軒、復活したお好み焼き屋「たたら」は、復興への島民のシンボル的存在です。

復活させたのは鴉(からす)昇さん(80)とケイ子さん(72)夫婦。

コロナ危機で、さぞかし大変だったろうと取材したのですが、予想外の話に驚きました。

『島』は、どのようにコロナ危機に対応したのでしょうか?

◆「お客さんは普通に来てましたよ」「えっ!」

「お客さんが減って、大変だったでしょう」と聞くと、ケイ子さんは「いや、普通に皆さん来てくれてましたよ」。

「えっ!」

さらに、「どちらかというと今の方がお客さんが減ったねぇ。緊急事態宣言が全国に出てた時は忙しかったんだけど、先月、解除されてからの方がヒマ」と真顔で話します。

「えっ!?」

◆都市部の飲食店と真逆の現象!なぜ?

訪れた時、丁度、2人の女性客がお好み焼きを食べていました。

手前が豚玉うどん乗せ(750円)、奥がイカ玉そば乗せ(750円)、ちなみに私はミックスそば乗せ(900円)を頼み、焼いてもらいながら2人の女性客と、ケイ子さんの3人に取材しました。(というか実際には雑談、世間話)

※私のお好み焼きは、こんな感じから始まった(写真下)

2人の女性客は姉妹で大三島生まれ。お姉さんは大三島在住、妹さんは隣の伯方島で生活しています。

2人によるとコロナ危機が発生してから、島を出ない生活をしていたといいます。

「島の人の輪の中にいれば大丈夫」。

2人が声を揃えます。

島で感染者が確認されていないんだから、「島から出なければいい」(2人)。確かに今治市は感染者が確認されていません。

ちなみに、大三島には3軒のスーパーがあるそうですが、出会うお客はほとんど顔見知り。

緊急事態宣言発出中は「この人、見たことないという人がいたら、誰?誰?と不安に思った」そうです。

「自分たちも島の外に出ないんだから、見慣れない人が島に来ると、なんで来るの?と思った」といいます。

◆ステイ・ホームではなくステイ・アイランド(島)

ケイ子さんは、私のミックスそば乗せに隠し味的に使うイカ天を結構な量入れ、味の特徴であるザクザク感を出すキャベツの角切りを、これまた結構な量、混ぜながら話しに加わります。

「差別はダメだし、この辺りで暴言なんかないけど、島で見かけない人を見ると、やっぱり気持ち的には怖いよね~」(姉妹)という言葉にうなずきながら、「島の中なら大丈夫という安心感があって、この店にも普通に来てくれてたんだと思う」と話します。

そして、「緊急事態宣言の解除までは島の中に閉じこもっていた人が、今は解除されてホッとして島の外に、飲食や買い物に動き始めたんだと思うよ。うちの店に来るどころじゃないよね~、やっと解除されて、ストレスから解放されたんだから」と今の”ヒマ”な状況の背景を説明してくれます。

都市部では「ステイ・ホーム」が安心の要ですが、大三島では「ステイ・アイランド」が安心の要になっていたのです。

◆危険な面もあるが、”島”という共同体の単位がコロナを防いだ可能性も

私のミックスそば乗せには最後に、厚めの豚肉が乗せられ、1回だけひっくり返して出来上がり。コテでピシャピシャ叩いたり、押したりせず、ふんわり仕上げるのが”キモ”です。

具のゴロゴロ感が最大の特徴です。ケイ子さんの100%自己流なんだそうです。小エビに微妙に殻が残っていて、その存在感がまた、絶妙にイイ感じですね。

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コロナ感染者に対する差別や暴言、人権侵害が大きな問題となっています。

日ごろからの顔見知りを中心とした”結束”で、コロナを防ぎ、島という閉ざした”安心”の中で普段通りの生活を送るというのは、大三島ではコロナ危機への有効な感染防止対策になった可能性があります。

こうした”結束”による”安心”が、場合によっては排除や差別の芽になることも否定できないとも感じました。しかし少なくとも大三島、あるいは島しょ部では、これまで有効に機能しているように思います。

◆コロナより「前」には戻らない

ケイ子さんは「長いこと生きとったら、どんな目に合うか分からん」と2年間で2度の歴史的災害を振り返りながら、「もう5年は頑張らんと」と将来を見据えます。

その、これからの5年間ですが、「コロナより前にはもう、戻らないと思う」。

「これからはもう、のんべんダラリンと生活できるような時代じゃなくなった」と話します。

80歳と72歳の夫婦は2度の歴史的試練を経て、これからより”緊張感”を持って生きたいといいます。

なんだか、こちらも背筋が伸びる思いでした。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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