道後とワインと朝ごはん

オピニオン室

「道後には、単身赴任や一人暮らしの方が多く、自分の帰路の中で寄って食事をしたほうが安全だと思ってきてくださる方も多くて」-。

道後温泉本館のほど近くに、ちょっと珍しいワインバーがあります。
メインは朝ごはん。無添加食材にこだわった手作りモーニングと自然派ワインが楽しめるお店「麻とき」です。
”前職は専業主婦”と語る村上麻衣さん(29歳)が、去年9月にオープンしました。

ナチュラルワインがモーニングで楽しめる店として、徐々に評判が広がっていた矢先、コロナ禍に見舞われました。
観光客の足も途絶えた道後で、村上さんは今、「一人でも頼りにしてくれるお客さんがいるので」と、テイクアウトのモーニングとワインを提供し、踏ん張っています。

(モーニングのテイクアウトは税別1000円、ワインのテイクアウトはグラスワインの20%オフで)

今はテイクアウトが多くなりましたが、もともとは朝がゆが自慢のモーニング。お皿に盛りだくさんの野菜料理を目当てに、観光客や、旅館などでの夜勤を終えた人たちで朝から賑わっていました。

村上さんは、県立松山西中等教育学校の1期生。県内有数の進学校では珍しく、高校を卒業してすぐ就職します。
「単純に働きたい、稼ぎたいと思っていたんですよね。でもただ働くだけじゃない、いつか自分が学びたいと思うことが出てくるまでに、最低限のスキルは身につけておこうと」-。
接遇などが学べる百貨店に入社。婦人服のオープニングスタッフとして働いた経験が、今にも役立っていると言います。

結婚してしばらく専業主婦でいましたが、日ごろから子どもを連れてよく散歩に来ていた大好きな道後で、ひょんなことから起業をすることになります。
こだわりは朝ごはん。そして自然派ワインです。
希少なナチュラルワインを置けるようになったのは、ある輸入代理業者がたまたま村上さんのインスタグラムのフォロワーだったことがきっかけだそうです。

(何かがあっても“誰でもオペレーションできる”ように、細やかな記録を残しておく習慣は、百貨店時代に身につけたそうです)

「ワインが好きすぎて…」とはにかむ村上さん、1本1本のボトルについて、作り手の経歴、どのような思いでワインを作っているか、そしてワインの味わいの魅力を、慈しむように語ってくれます。
「よくそこまで勉強していますね」と私が感心すると、村上さんは「知識を入れることも大事ですが、それ以上に、作り手がどんな人生を歩んで、醸造家に転身されたかとか。人生の転機でワインに出会って、縁をつないでくれたブドウがもたらせてくれた幸せが広がっている世界に、作り手も感謝している気持ちを伝えたくて店に立っているようなものです」と、目を輝かせながら話してくれました。

テイクアウト以外に、店内で食事をすることもできます。「密」空間を作らないよう、客席を減らし、テーブル間も大幅に離しています。
以前の半分以下の売上ですが、単身赴任や一人暮らしのお客さんの拠り所としても、できる限りのことはしたいと語ります。

 

4歳と1歳の2児のママである村上さん、主婦とママと経営者とワインの勉強と、体を休ませるひと時さえないように思えますが、「今は無理しないようにしながらも、道後を盛り上げていきたいという夢はあります」―。

この苦境を乗り越えた道後は、さらに魅力を増しているに違いないと感じました。

きのう4月28日(火)の「ニュースな時間」で紹介した村上さんへのインタビュー(16:35頃)は、放送後1週間はラジコのタイムフリー機能でもお聞きいただけます。

村上さんはインスタグラムでもすてきな発信をしています。
麻とき(松山市道後湯之町)のモーニングは、あさ9時からお昼3時までの営業、木・金の朝はおやすみです。

記者プロフィール
この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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