異色の陶芸家

オピニオン室

きょうは松山を第2の故郷とする陶芸家をご紹介します。

虫明焼作家 黒井博史さん

虫明(むしあげ)焼、ご存じでしょうか。岡山県瀬戸内市の虫明地区で江戸時代から続く焼き物です。京都の清水焼の流れを汲み、繊細で優美な茶湯窯として高い評価を受けています。

特徴は、薄造りの生地に纏う、若草色や琵琶色といった鄙びた色合いの釉薬です。
「電気窯の中を950度から1200度まで上げたとき、薪をくべて窯の温度を変える。窯の中の状態を変えて化学変化を起こさせると、薪の煙を多く吸ったところは若草色、煙が少ないところは琵琶色。自然の流れで色が違うんです」―。虫明焼の作家、黒井博史さんは話します。

虫明焼の作家、岡山県重要無形文化財保持者の黒井千左さんと、長男の黒井博史さんの親子展が、いよてつ高島屋6階美術画廊できょうから開かれています。※いよてつ高島屋は4月18日から臨時休業となりました

岡山出身の黒井博史さんは、松山大学の卒業生です。
「よく遊びましたが、文章を書くのも好きでした。経済学の研究論文もよく書いていたので、ゼミの先生から“君はジャーナリストはどうだ”と言われて」-。
卒業後は、難関の山陽放送に入社。報道記者や営業マンとして活躍します。

岡山を代表する陶芸家の一人息子であり、幼いころから期待された、後継ぎとしての人生。それだけに博史さんは「継ぐことから避けて避けて避けていました」と笑います。

黒井千左さんの作品

営業部に所属していた時は、
「父(千左さん)のお客さまのところにも行くことがあって。父の作品を横で見ながら営業とか。拷問でしたけど」と話す博史さん。
「だんだん逃げられなくなり、外堀を埋められましたね」と笑いながらも、6年後、職を辞し、京都府立陶工高等技術専門校、京都市産業技術研究所工業技術センターで学びます。
2006年に父・黒井千左さんのもとで作陶に入ってから、2010年に日本伝統工芸展初入選、以来入選を重ね、2012年に岡山県美術展の最高賞、日本伝統工芸中国史部店県知事賞など、数々の賞を受賞します。

「やはり、お父様のDNAですね」と問いかけると、「DNAはないですね。父と比べると手の動きも遅いし、不器用だなと実感しています。だから誰も見ていないところや、夜遅くに(努力を)やっています」と謙遜します。

2018年には、岡山のホテルで、フレンチのコース料理を、黒井さん制作の虫明焼で楽しむというイベントが開かれ大盛況。

伝統に革新的な手法を取り入れる黒井さんの作品は、これまで焼物に触れる機会の少なかった層にまで、親しんでもらういい機会になりました。

今回の父子展で展示されている数々の作品。

茶碗、水指、茶入れなどの茶道具をはじめ、花器や酒器、コーヒーカップなど約80点が展示された「虫明焼 黒井千左・博史父子展」。
いよてつ高島屋6階美術画廊で4月21日(火)まで開かれています。※いよてつ高島屋は4月18日から臨時休業となりました

コロナ禍のなか、しっかりと対策を施しての開催です。
愛媛で学生時代を過ごした気鋭の作家の活躍を、ぜひHPでもご覧ください。

※4月14日(火)の「ニュースな時間」で紹介した黒井博史さんへのインタビュー(16:35頃~)は、ラジコのタイムフリーで、放送後1週間、お聞きいただけます。

記者プロフィール
この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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