「じゃあ、天然牛ってあるんですか?」ー。
先日、熊野養鶏(四国中央市)が新発売する「媛っこ地鶏ソーセージ」のお披露目会が、松山市の「ピッツェリア マルブン」でありました。
熊野養鶏といえば、こだわりのたまご専門店「熊福」を手掛けていて、県内の卵かけごはんブームの先駆者だったという印象があります。
(熊野憲之社長と「熊福」店長の奥さま智子さん)
鶏にストレスを与えない環境と、研究を重ねた発酵飼料から生まれる「美豊卵」は、使用していることをメニューにアピールしている飲食店も増えています。
同様に飼育している媛っ子地鶏は、生産量は少ないながらも、味の良さで評判が高いそうです。
しかし、鶏肉で需要が高いのは、脂ののったもも肉で、あっさりした胸肉は、引き合いが今一つというのが課題でした。
これだけこだわったおいしい胸肉をなんとか消費者に食べてもらえないかと相談をしたのが、旧知の「マルブン」社長の眞鍋明さんでした。
そこで出来上がったのは、無添加で、鶏のうまみを最大限に生かした生ソーセージ。
マルブンではさまざまなメニューになって登場しました。
このお披露目会には、様々な業種の生産者も出席していました。
その一人が、養殖真鯛の「鯛一郎クン」ブランドで知られる、宇和島市の(株)タイチの徳弘多一郎さん。
徳弘さんと熊野さんの出会いは、徳弘さんがゲスト出演をしていたラジオ番組を、熊野さんが、偶然カーラジオで聴いたのがはじまりです。
「みなさん天然天然っていいますが、天然牛っているんですか?」という徳弘さんの言葉。
あまりもの衝撃に、車を脇に止めて、ラジオに聞き入ったそうです。
どんなに飼育環境やエサにこだわり、手間とコストをかけていても、養殖ものより天然魚がありがたがられた時代。牛肉は、飼育方法やエサが重要視されブランドになっているのに、どうして魚は、手間とコストをかけ味と安全にこだわりぬいていても評価されないのか、そんなじれったさが伝わって来ました。
同じように、熊野さんも、鶏にストレスのかからない環境と、エサにこだわり、おいしい鶏卵を生産していたにもかかわらず、お客さんからは、「これ放し飼いですか?」と問われ、そうではないと答えると、「じゃあ、結構です」と断られていた頃。
放し飼い、天然。いいところもありますが、何を食べているのか、水質や土壌など、どんな環境で育ったかわからないという側面もあります。
きちんと管理した環境で、自ら研究を重ねて作ったエサを食べさせた鶏のよさを、なかなか分かってもらえない悔しさを何度も味わっていたときに、ラジオから流れてきた鯛一郎さんの言葉。
同じ思いで生産をしている人がいることを知り、すぐに眞鍋さんを通じ、連絡を取ったそうです。
こだわりの産品を直接消費者のもとへ―。
よく聞く言葉ですが、生産者にとってはなかなかうまくいかないのが現状です。手塩にかけて生産しても、販売の開拓が困難を極めるからです。大手商社や問屋から、肥料・飼料を購入する代わりに、販売も手伝ってもらうというのが、流通ルートの大勢を占めているため、肥料・飼料も独自の方法で調達したい、という生産者に対しては、「では、販売はご自身でどうぞ」と言われるのがオチ。生産者にとっては、生産にも力を割かなくてはいけないし、販路開拓のため、営業にも出かけていかなくてはならない。その上、試しにどうぞと置いていったものの、取引成立までには至らないケースも多く、「まさに地獄でした」と語る生産者もいます。
そんな中、生産者と生産者、生産者と消費者をつなげる役割をしたのが、「マルブン」の眞鍋さんでした。真鍋さんは、こだわりの生産者の産品を、自社レストランで積極的に使うだけでなく、このように生産者同士をつなげて、あらたな動きへと導いています。
いま「6次産業」が注目されています。
1次産業(生産者)、2次産業(加工者)、3次産業(サービス業)それぞれを×(かける)ことで6次になる。
×(かける)人がいて、つながっていく。
じゃあ私たちにできる×(かける)は何なのか…。「おいしかった!」を伝えることなのかな?