桜と人気のおでん、そして、コロナウイルス

ニュース解説

西条市に桜の時期だけオープンし、時には2時間待ちという行列の出来る人気の『おでん』があります。

おととい(5日)、取材用に特別に作ってもらい、味見させてもらいましたが、一番人気のすじ肉を口に運ぶと田舎風の甘みが広がります。「ん!美味い」と納得し、続いて、すまきをムシャムシャ頬張ると、お酒が飲みたくなる・・・そんな味でした。

50年以上、味を守り続けているのが西条市石田の相原サツキさん(89)。「よく聞かれるんですけど、別に特別なものは入れてないんですよ。すじ肉のダシに酒と醤油、ザラメ砂糖で味付けするだけ」と話します。

ところが50年以上、人気を守り続けたおでんが、今年はコロナウイルス問題で販売中止に追い込まれました。

今年、おでんを作る必要がなくなって、サツキさんは「残念」な気持ちがある一方で、「ホッとした」とも語ります。

「残念」だけど、「ホッ」とした・・・。複雑な気持ちが生まれる理由は、どこにあるのでしょうか?

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石鎚山を背景に抱く、西条市の水田地帯にポツンと、その桜の名所はあります。

「ひょうたん池というぐらいだから、ひょうたん型をしているのかな」と思って、現地に行くと、ほとんどプールのような長方形。水面には花筏。

歴史をサツキさんのご主人、相原一義さん(91)に聞くと、今から約100年前の大正10年ごろ、農業用のため池として、地域の人々が作ったそうです。

最初はひょうたん型をしていたそうですが、かんがい用水が整備されるに従って、その必要性が薄れ、徐々に埋められるなどして現在の形になりました。

ちなみに、現在、花見スポットになり、おでんを販売する小屋が立つ場所も、もともとは池でした。この場所に例年、サツキさんの作るおでんを求めて、長い行列が出来ます。

ひょうたん池に桜が植えられたのは1955年(昭和30年)、当時の吉井村と壬生川町が合併する際、その記念にと植えられました。80本以上の苗木が、東温市から三輪トラックで運ばれましたが、今も花をつけるのは、その半数ぐらいだといいます。

桜の季節におでんが登場したのは、桜が植えられた5年後くらい、今から60年ほど前ではないか・・・と相原さん夫婦は記憶をたどります。

作り始めたのは、サツキさんより一つ上の世代、現在、100歳くらいの婦人会のメンバーだったとサツキさんは話します。

その役割を引き継いだのがサツキさん。それから50年・・・。

つまり、おでんを作り始めた世代を第一世代とすれば、サツキさんは第二世代。そして、第二世代が”異様”に長く続いていることになります。

◆「元気ならするんだけど・・・」

桜の季節の”人気おでん”といえば、地域に活気を生んで活性化につながるように感じますが、作る側は大変です。

束になったすじ肉を見れば分かるように、名物になり過ぎ、ファンの中には鍋を持って並ぶ人の姿も目立つようになりました。

販売は午前10時半から午後6時までの7時間半。10人程度が協力して対応しますが、メンバーも年々、高齢化します。サツキさんも89歳です。

「ご飯を食べる間も、トイレに行く間もない」(サツキさん)。

今年も、販売は1週間と決めていましたが、その前後にガスの用意や仕入れ、飾りつけなどの準備に二日間。後片付けに同じく二日間かかって、10日間くらいはクタクタになる日が続きます。

◆50年間で初めて、ゆっくり桜を眺められる

そんな中、今回のコロナウイルス問題が起きました。3月初旬には一旦、業者に材料の予約も入れましたが、中旬に中止を決めました。

残念な気持ちもありましたが、「今年はホッとした」と語ります。

「私が元気なら続けたいけど、しんどいから止めたいという気持ちもある。先のことは分からないし・・・」(サツキさん・写真中央)

複雑な気持ちをのぞかせます。

しかし、今年は50年間で初めて、ゆっくり仲間と”ひょうたん池の桜”を眺めることが出来て、サツキさんにとっては特別な年になりました。

今年の桜は特別、美しいそうです。

◆地域に必要な資産は、努力しないと残らない

美しい桜も、美味しいおでんも、放っておいて残るものではないと感じました。

桜には世話が必要ですし、おでんは誰かが味を守り、誰かが炊く必要があります。

買いに行けば、売ってくれるのは、当たり前ではないと知りました。

ひょうたん池でおでんを販売するには営業許可が必要ですが、その期限は5年単位、来年がその最終年になるそうです。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(54歳)立教大学卒。1988年南海放送入社後、新居浜支局記者、県政担当記者などを経て、報道部長。現在、執行役員報道局長・解説委員長

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