地方出版社の役割

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「活字離れが進んでいるというけれど、スマホ然り、以前に比べて活字にはよく触れている。“離れ”が進んでいるのは商業出版の分野だけなんですよ」ー。
先日、忽那修徳さんをしのぶ会で、創風社出版(松山市)の大早友章代表が語りました。

地方出版社は、こんな身近なところにこんな発見が!をたくさん提供してくれる貴重な存在です。大早さんに“今”を聞きました。

創風社出版は、大早さんが1985年に夫婦で始めました。

「当時、喫茶店をやっていて、それはそれでおもしろかったんだけど、みんな年を取ると、社会人は定年退職したり環境は変わるでしょ。自分たちはずっと喫茶店のまま。違うことがしたいなと」。
仲間たちに本を書いてもらい売りに出したらよく売れ、いいスタートだったと笑います。

これまで500冊近くの本を出してきた大早さん。最初の1冊は、喫茶店のお客さんだった神山恭昭さんの本『絵日記 丸山住宅物語』でした。今も人気のイラストレーターですが「わしの」シリーズなど味のある画風が特徴で「ヘタウマのまま上手になっているんですよね(笑)」
丸山住宅ものがたり : 絵日記

編集もデザインもいわゆる家内工業で行っていたため、バブルもリーマンも景気の影響を受けることはなかったと言いますが「逆に、ライターの卵に取材をお願いするとか、デザイナーの卵に仕事を依頼するということをしなかったので、自分たちがそういった人材を育てることができなかったというのが心残り」だと語ります。

「これ、問題作」と大早さんが取り出したのが『猥々シネマ快館』。
名作映画の官能的なシーンをピックアップしてエッセイにした作品です。
松山在住のイラストレーター得松ショージさんが、風俗店紹介誌に連載していたものを本にしました。

猥々シネマ快館 猥々シネマ快館〈2〉 猥々シネマ快館3

「書評に出しても(新聞・雑誌が)なかなか取り上げてもらえないんですよね」と笑います。シーンど真ん中を取り上げているわけではなく、ちょっとした仕草や立ち居振る舞い醸し出すエロスに注目しているところに、芸術文化の香りがします。

去年12月2日に発行した『しろくまピース、20歳になりました』。
「うち(の顧客)は基本的には県内と著者の周辺ですが、ピースは全国区です。変な話、アマゾンのほうが売れ行きはいい」と語ります。

Polar Bear PEACE 20

「人に育てられたせいかもしれないが、ピースはおっとりした人柄の良さを感じる」と、大早さんがお気に入りの1枚はこちら。

まだ高市さんにべったりで、親離れができてない箱入り娘のようだといいます。

大早さんは「高市さんが人工保育で育てたノウハウや記録したものは、そのあとの全国レベルのデータになっている。全国から研修に来るほど参考になっている。それは僕らの仕事ともつながっている」と語ります。

「僕らが出版するものは、無名なんですよ。無名の高校の先生・大学の先生ずっと研究した、たとえば田舎の小さな民俗学的なことは都会の出版社からすると魅力的なものではない。コツコツと研究しているけれど、まわりからは認められないし、奥さんだって何をしているのか知らない。うちが存在することで、彼らからすれば、本を出すという目標になってもらえていたと思う」ー。


〈左から、松山市長選挙の冤罪事件を扱った「ある日突然犯人に」は全国の同様事件でも注目された。中央、里海(さとうみ)という概念を広げた理学博士柳氏が科学に興味を持ったきっかけも紹介されている本。右、南予の貴重な資料をまとめた本〉

大早さんは今後の出版の可能性として「たとえば桐の箱を開けて豪華な装丁の本を開けると、そこだけにしかない極上の情報があるといった、少部数、高価格な本かなあ」と笑いながらも、「新しい形は、きっと僕たち活字分野にいた人間じゃないところからでてくるんだろうなあ」とつぶやきます。

そして自らの使命として「故人になり、あと30年たったら、その人たちの仕事はわからなくなる地元作家・研究者たちが残したもの。それらを墓標のように、ネットのどこかに残しておきたい」ー。

ネットで、世界でもバーチャルでもどこでも自由に行き来できる時代だからこそ、いま、私たちが生まれ育ち生きているこの場所の記録を、しっかりと残していただきたいと思いました。

創風社出版(松山市)

創風社出版の大早友章さんへのインタビューは、きょう2月26日(水)のニュースな時間、18:30頃から放送します。ラジコなら放送後1週間、タイムフリーでお聞きいただけます。

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この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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