eスポーツ⑤障がい者の視点でみたeスポーツ

ニュース解説

吉成健太朗さん(24)。

生まれてから一度も歩いたことはありません。

時速160キロのボールを投げる選手がいると言われても、どの位凄いのか?

ボールを投げたことがないので分かりません。

でも、「ああいうプレイが出来たらカッコイイな」(吉成さん)と思っています。

「あのプレイがどの位凄いのか?ゲームなら僕らにも分かるし、逆に言えば、僕らが凄いプレイをすれば、健常者のみんなにも分かってもらえる」(吉成さん)。

脊髄性筋委縮症と共に生きる吉成さんにとってのeスポーツです。

◆『ゲームやろうぜ!プロジェクト』やろうぜ!!

北海道函館市から約70キロ、車で1時間半の国立病院機構・八雲病院で吉成健太朗さんは生活しています。

八雲病院は筋ジストロフィーなど重い障がいを持つ人の専門医療を手がけ、10歳代から50歳代までの約100人が、リハビリや能力を活かせる仕事などに取り組んでいます。

ここでは、よりよく生きるための、全ての行為が医療につながります。

作業療法士の田中栄一さん(48)。20年余りに渡って、みんなの生活をサポートしてきました。

「進行性でどんどん、身の回りのことが出来なくなっていく人が多い。そうすると、何もしなければ、ベットの上の人になってしまう」(田中さん)。

取材をしたのは先週5日、「愛媛の今年の冬は暖かいです。北海道はどうですか?」と尋ねると、ベットでゲームをしていたある人が、窓の外を見やって、「こっちも雪が少ないです」と答えてくれました。

後で思えば、ここで生活する人は、まず、病院の外に出ることはないでしょう。今年の冬が暖かいのか、寒いのか・・・、トンチンカンな質問をしたなぁ~と後悔しました。

しかし、ここで生活する人たちも「誰かの役に立ちたいとか、仕事をしたいとか、まだ若い人が多いので、自分が何者かになりたいと思っている」(田中さん)といいます。

どうすればいいか?

何が出来るか?

みんなで一緒に考えた結果、1つの選択肢としてeスポーツがある・・・ 。八雲病院には『ゲームやろうぜ!プロジェクト』の文字が掲げられています。

◆”個性”に合わせたコントローラーで『やろうぜ!』

田中さんはみんなの身体機能に合わせて、ゲームが出来るコントローラーを工夫して作ります。プロジェクトの田中さんの役割の1つです。

堂向智樹さん(30)の場合は、目の動き、唇の動き、指先の動きなどを使ってプレイします。

堂向さんにとって、これらの”わずかな”動きが、ほぼ”全身運動”です。

◆eスポーツは医療の一環?

プロジェクトのコアメンバーは約20人。

ほぼ毎日1時間、集まってゲームを楽しんだり、eスポーツチームの練習に励みます。

声を掛け合ったり、励ましたり、時にはヤジを飛ばしたりと、かなり賑やかです。

「呼吸器を付けて延命は出来る。しかしその後、どういう存在として生活してゆくかをサポートすることが医療」(田中さん)。

八雲病院ではeスポーツは医療の一つ、という見方も出来るかもしれません。

◆場所や時間の制約を打ち破ったeスポーツ

プロジェクトのリーダー的存在の吉成さん。

「僕らのように障がいを持っている人たちも、ゲームをやりたいって思っていることを知ってもらうために、活動を始めた」。

吉成さんは5人一組のチームで競う、「リーグオブレジェンド」というゲームのチームを八雲病院で結成し、大会に出場したり、エキシビションマッチを行ったりしています。

お姉さんの吉成亜実さん(26)もチームメンバーの1人です。

亜実さんは割り箸を使ってキーボードを叩くなどしてキャラクターを動かし、競技します。

亜実さんは、とても表情が明るく、豊かです。

亜実さんと健太朗さんの部屋は別々ですが、オンラインで対戦したり練習できるので、場所の隔たりはeスポーツチームの活動の障害になりません。

場所の隔たりを取り払えたことで、それぞれの都合のいい時間に活動できるようになり、時間の壁もなくなりました。

◆障がい者の視点で見たeスポーツ

吉成さんは、「僕らには、障がいがあるからこそ見えている視点があるのは確か。僕らがやりづらいと思うことを、解決して欲しいと思うのは、僕らのエゴかもしれないけど、健常者の方々にとっても必要なことかもしれない。僕たちだから見える視点で問題を投げかけて、一緒に解決策を考えていければいいなと思っている」と話します。

そして、こう結びました。

「どんなことでも、そういう風に考えるのが、生きるってことかなと思います」。

◆「愛媛はみんなが仲のいい雰囲気」かな?

南海放送で3月8日に開催される「リーグオブレジェンド」eスポーツ大会には、吉成さんらのチームもオンライン参戦します。

吉成さんは高校生の時、修学旅行でディズニーランドに行った経験があります。北海道から出たのは唯一、その時だけだそうです。

愛媛の印象について、「僕らを大会に招いてくれるんだから、きっと、みんなが仲のいい雰囲気の場所なのかなと思います」と話していました。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(54歳)立教大学卒。1988年南海放送入社後、新居浜支局記者、県政担当記者などを経て、報道部長。現在、執行役員報道局長・解説委員長

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