eスポーツ②障がい者チームが”挑戦”する理由

オピニオン室

県内で初めて、障がいを持つ児童・生徒7人のeスポーツチームが誕生しました。

結成したのは、マルクスコラの放課後等デイサービスに通う子どもたちです。

松山市内3カ所の教室に放課後、約130人の主に発達障がいの子どもたちが通っていて、将来の就労や自立に向け、コミュニケーション能力の向上などに取り組んでいます。

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結団式が行われたのは去年12月27日。

メンバーは小学3年から中学2年生までの7人です。

当面の目標は、3月8日に松山市で開催されるeスポーツ大会『スティーロ杯ゼロ』への出場を目指します。

◆興奮、落ち着きの無さ・・・「大丈夫かな?」

結団式の当日、まず教室にゲーミングPCが設置されます。

初めてみる本格的なゲーミングPCに、子どもたちはみんな興味津々、興奮気味。最初はちょっと、落ち着きがない感じです。

ゲームが好きで、自分で両親に「参加したい」と希望を伝えてチームに参加しているだけに、意欲は満々。

PCの機能や性能などについて、撮影スタッフを質問攻めにします。

結団式のスタートは熱気に溢れつつも、メンバー1人ひとりが、まとまりなく、思い思いにバラバラの行動をとっているような印象でした。

eスポーツ大会『スティーロ杯ゼロ』で採用されるゲームは、「リーグオブレジェンド」という難易度が高いとされるタイトル。5人1組のチームで競う”団体戦”で、役割分担やチームワークが要求されるのが大きな特徴です。

「大丈夫かなぁ?」(撮影スタッフ)。

◆第一関門 ・・・”使用不能のアカウント”にこだわる

PCが設置されると、今度はアカウントの作成です。

教室のスタッフがサポートしますが、メンバーの1人が自分が使いたい愛称にこだわって、前に進まなくなります。

「その名前は、もう誰かが使っているから、別の名前にしないと、アカウントが作れないよ」と説明しますが、かなりこだわります。

その間、他のメンバーは待ちぼうけ・・・。気まずい雰囲気が・・・。

なぜ、使えないのか理解してもらい、さらに、他のメンバーも我慢強く待ち、第一関門突破!

ホッ・・・(撮影スタッフ)。

◆練習が始まると、集中!そしてチームワークも

ところが!一転、実際にプレイが始まると、凄まじい集中力です。

この状況は、”表情”を見てもらうしか説明のしようがありません。

さらに、驚いたのは「キャプテ~ン!どうすればいいですか?」とチーム内で”声掛け”まで出始めたことです。

「リーグオブレジェンド」では1人でいくら頑張っても、全体の戦果が上がるとは限りません。

こうして約1時間半の全体練習を終えました。もちろん、時間が来るときちんと切り上げました。

「なんだか個性的な子が多くて、楽しみなチームだな」(撮影スタッフ)。

◆なぜ、障がい者チームの結成か?

株式会社マルク(松山市・北野順哉社長)は障がい者の自立を、就労支援を通してサポートする会社で、これまでに県内だけで60人を超える障がい者の、一般企業への就職を実現しました。

北野社長は障がい者の就労支援に関わって、「せっかく能力があるのに、ハンデがあるため様々な経験が少なく、そのために不利な状況に置かれている。もっと早い時期から人生に必要な経験を積めば、もっといい結果が生まれるのではないか」と考え、放課後等デイサービスを始めたと説明します。

人生に必要な経験。その1つが部活動でした。

部活動は、そもそも少子化などの影響で減少傾向にありますが、障がいを持った子どもたちは、さらに、選択肢が少ないのが現実です。

◆自分で自分を褒めてあげられる場に

マルクスコラのeスポーツチームは、部活動の位置付けで結成され、「歯を食いしばって取り組んで、頑張って良かったと振り返ることが出来る、思い出を作って欲しい」(北野社長)という願いが背景にあります。

それは「自分で自分を褒めてあげられる場」(北野社長)でもあるわけです。

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マルクスコラのeスポーツチームは、3月8日に南海放送で開かれるeスポーツ大会『スティーロ杯ゼロ』に出場を目指して現在、週2~3回の練習に励んでいます。

「初めてのチャレンジだけに、途中で”空中分解”してしまう可能性もある」(教室のサポートスタッフの1人)。

これから直面するであろう苦難を乗り越えて、大会への出場が実現すれば、チーム名やロゴをプリントしたお揃いのユニフォームをみんなで着て、カッコよく登場したいといいます。

”自分で自分を褒めてあげられる” 結果に向かって、7人は練習に打ち込んでいます。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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