第44回「伊方原発3号機で“まさか”のトラブル」

オピニオン室

■1本の電話
2020年1月12日(日)午後4時53分。
愛媛県広報広聴課の担当者から私の携帯に1本の電話がありました。
「伊方原発でトラブルです。本日、午後7時から県庁で会見を行います。」

伊方原発で異常が発生した場合、四国電力が愛媛県、伊方町と締結している安全協定に基づき、その異常レベルをA~Cの3段階に分類し、愛媛県が公表することになっています。
このうち「A区分」と呼ばれる異常は、最も緊急性が高く、社会へ与える影響も大きくなる恐れがあるものとされていて、即時に公表されます。
関係者などから情報を集めたところ、異常の内容は、なんと「制御棒を誤って引き抜いた」というA区分のトラブル。
10年余りの記者生活の中で、初めての出来事に緊張が走ります。

■【制御棒を誤って引き抜いた】
その日、デスクだった私は、頭の中で様々なケースを思い描きながら、夕方と夜に放送するニュースの準備を終わらせ、急いで県庁に駆けつけました。
午後7時を迎え、愛媛県と四国電力による会見が始まりました。
トラブルの状況をまとめた報道資料が記者に配られます。

会見によると、定期検査中の伊方原発3号機で、原子炉容器から燃料集合体を取り出す準備作業をしていたところ、誤って、核分裂反応を抑える制御棒を引き抜いてしまったということ。
伊方原発3号機では、2019年12月26日から定期検査に入っています。
2020年1月13日午前0時からは、3号機の燃料集合体157体を取り出す作業を行う予定でした。
この日は、その準備段階として、原子炉容器の上蓋の内側にある上部炉心構造物という燃料集合体と制御棒を固定する構造物を取り外す作業をしていました。
しかし、何らかの理由で、燃料集合体に挿入していた48体の制御棒のうち、1体が上部炉心構造物に繋がったまま切り離されず、一緒に引き抜かれてしまったというのです。

その後、制御棒は、元の状態に戻されましたが、およそ7時間にわたり引き抜かれた状態となっていました。

ただ、四国電力によりますと、定期検査中のため、原子炉容器内は核分裂反応を抑える高濃度のホウ酸水で満たされていて、制御棒が1体引き抜かれた状態でも燃料集合体や水温の変化はなく、外部への放射能の影響もなかったということです。

■【全国初】の使用済MOX燃料取り出し
四国電力は、トラブルのあと、上部炉心構造物と制御棒の切り離し作業をやり直しました。
そして、制御棒が引き抜かれていないことを確認した上で、21時間遅れの1月13日午後9時から燃料集合体の取り出しを再開し、1月16日午前10時16分に作業を完了しました。

157体の燃料集合体の中には、使い終わったウラン燃料からプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜた使用済みの【MOX(モックス)燃料】が16体含まれています。
今回の定期検査では、このMOX燃料16体を含む37体が交換されることになっていて、MOX燃料は新たに5体が炉心に装てんされます。
【定期検査前(全157体):ウラン燃料141体、MOX燃料16体】→
【定期検査後(全157体):ウラン燃料152体、MOX燃料 5体】
四国電力によりますと、燃料の装てんは3月上旬。送電の再開は3月下旬。
通常運転開始が4月末の予定だということですが、トラブルの原因究明をした上で、送電再開に取り組みたいとしています。

■国が責任を持って
このように2009年に本格的なプルサーマル発電が始まって以降、使用済みとなったMOX燃料が出たのは全国で初めてのケースです。
しかし、国は、使用済みのMOX燃料を再利用する方針であるものの、実用化に向けた技術的なメドは立っておらず、さらには、国内に再処理できる施設もありません。
このため、四国電力は、当面、使用済みMOX燃料を伊方発電所内に保管せざるを得ない状況です。
こうした状況について、愛媛県の中村知事は、これまでに「MOX燃料に限らず、使用済燃料の最終処分を国が責任を持って決めなければならない。国全体としての原子力政策の最終的なあり方について、国会議員は真剣に議論すべき」などと苦言を呈しています。

■安全確保の徹底を
四国電力では、このトラブルが発生するわずか5日前の2020年1月7日にも伊方原発3号機で、2017年10月の定期検査において、作業の手順が保安規定を逸脱していたと発表しています。

制御棒を誤って引き抜いたという〝まさか″のトラブル。

原子力規制委員会も「前例がない」などと原因究明と再発防止を求めていて、四国電力には安全確保の徹底が求められます。

※次回の記事更新は、1月23日(木)の予定です。

記者プロフィール
この記事を書いた人
御手洗充雄

1976年松山市生まれ。
1999年南海放送入社、2008年~報道部(記者として愛媛県警記者クラブ、松山市政記者クラブ、番町クラブなどを歴任し、現在はデスクとして活動中)
約10年の行政記者経験を基に県政・市政ニュースなどを分かりやすくお伝えます。

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