今治市のしまなみ海道沿線の島、大三島でレモンの花が咲き、清々しい香りが広がっています。レモンの花の蕾はピンク、なのに咲くと純白。そこに青い実をつけ、実は徐々にレモン色に変化します。取材して、レモンの不思議な色の変化を知りました。
レモンの蕾はピンク。
なのに、咲くと真っ白な花。
今、木には青い実と黄色の実の両方を付けています。
◆西日本豪雨の被災地・大三島で農地再編へ
今治市のしまなみ海道沿線の島、大三島上浦町は西日本豪雨で大きな被害を受けました。
被害を受けた園地では、主にミカンやはっさく、イヨカンなどが栽培されていました。
この地域の特徴は、園地の地権者が多いことです。南予のミカン園地では、例えば1人で3ヘクタール程度の栽培をするのは普通にみられますが、取材した多々羅大橋を臨む井口地区では、約2ヘクタールの面積に約30人もの地権者がいます。
「農地の再編」には地権者の同意が必要で、苦労を伴いましたが、その”壁”を乗り越え、作業効率がよく、高収益が望める園地の再編計画が軌道にのろうとしています。
◆量が足りないレモン、「取り合い」も
再編後の園地で栽培が検討されているのがレモンやキウイなどです。
中でもレモンは、これまで瀬戸内の島々では栽培が盛んでしたが、ここ数年、「首都圏のかんきつ販促イベントには、紅マドンナとレモンが欠かせない」(JA関係者)という人気です。
被災地近くの道の駅でも、温州ミカンとレモンはほぼ同じ広さで売られ、どちらかと言えばレモンの方が売れていました。
こうした旺盛な需要を背景に、レモンの価格はこの4年、高値で安定しています。
「欲しいけど、量が足りていない状態。業者の間で取り合いになっている。値段も過去には上下したけど、これからは極端に下げることは予想しにくい」(JA関係者)
◆レモンに改植する”脱サラ”農家も
農地再編計画が進む井口地区とほど近い、甘崎地区でかんきつを栽培する村上武彦さん(59)。
大三島で生まれ、サラリーマン時代に全国転勤を経験しましたが、57歳の時、地元で代々続くかんきつ農家を継ごうと、退職して新潟から帰ってきました。
「体はしんどいけど、気持ちがいい。実がなると達成感もある。サラリーマンはストレスに対して給料をもらっていたような気がするなぁ」と笑います。
海が見える園地に取材に入ると、清々しい香りに気づきます。
「これってレモンの香りですか?」と聞くと、村上さんが「ほら、これにおってみて!」とレモンの葉っぱを渡してくれました。
葉っぱからすごくいい香りがします。風呂に入れたら、気分いいだろうな~と思いました。
村上さんの園地は6カ所に点在していて、全部合わせて0.8ヘクタール。取材した園地は現在、主に「はるみ」を栽培していますが、広さは約0.05ヘクタールだといいます。
かんきつ取材といえば、南予ばかり取材してきた私にとって、驚くほど少ない面積です。
しかし、これがこの地域の特徴だと分かりました。
少ない面積ですが、高収益の品種を時代に合わせ柔軟に取り入れ、多品種をうまく組み合わせて利益を上げます。
そもそも現在の「はるみ」は、温州ミカンに接ぎ木して、実を成らせています。
「ほら!ここ」と村上さんが指さす部分を見ると、確かに継ぎ目のような跡があります。
現在、年間、約5本~10本のレモンの苗木を、40年~50年経った古い「はるみ」の木を伐採して植え替えています。
レモンのメリットの1つは収穫期間が長いことです。
花が一気に咲き、収穫時期が集中する温州ミカンに比べ、レモンは花がパラパラと咲き、実も11月から年を越して4月くらいまで収穫できます。
もちろん、青いレモンも黄色いレモンも需要がありますから、一時期に集中して収穫する必要がなく、人手が集中しなくて済みます。
村上さんはほぼ1人で、園地を経営しています。
この収穫期間の長いレモンに、紅マドンナや甘平、はれひめなど高単価のかんきつを上手に組み合わせ、収入の最大化を図ります。
◆担い手不足、高齢化をどう乗り切るか?
村上さんのようなUターン組が、かんきつ農家の新しい担い手になるケースはありますが、被災地の上浦町井口では、ほとんどが高齢者で農業の再開に消極的。場合によっては地権者がはっきりしないケースもあります。
こうした後継者などがいない被災地の上浦町では、農地再編後、都市部などからの、やる気のある新規就農希望者に、新たな農業の担い手になってもらう計画です。
西日本豪雨から復興後、新たな農業の担い手になると期待される若手新規就農希望者についてはさらに、取材したいと思います。