大王製紙エリエールレディスオープン熾烈な賞金女王争いの中で。河本結が見せた涙。

オピニオン室

  

今年の大王製紙エリエールレディスオープンは「黄金世代」を引っ張る賞金ランキング3位の渋野日向子が逆転勝利。これで現在賞金ランキングトップの鈴木愛、2位の申ジエとの差がつまり3つ巴の賞金女王争いは最終戦にもつれ込み盛り上がりを見せている。エリエールのウイナーズスピーチで「これほど誰かのために勝ちたいと思ったことはない」と涙ながらにキャディー定由早織さんへの感謝を語った渋野の陰で大粒の涙を流していた選手がいた。松山市出身の河本結だ。

彼女はプロツアーに今年初めて本格参戦した「ルーキー」ながら3月のアクサレディスで初優勝を挙げるとそれ以降も安定した力を発揮し、これまで10位以内に10回入るなど賞金ランキングは堂々の9位に入っている。来年はアメリカツアーに本格参戦することを決めアメリカツアー資格を取得するためのQTを受験し突破した。

「この試合はどうしても勝ちたいんです。地元の大会というのもあるしこのコースは小さい頃からお世話になった人がたくさんいるので」

松山市出身の河本は高校時代、本気で目標にしていたことがある。それがこの「エリエールレディスで優勝してプロ」になることだ。

LPGAツアーに参戦するためのプロ資格を取得するには主に2つの方法がある。一つは「プロテスト」に合格すること。これは毎年数百人の受験者の中から上位20人がその資格を得る狭き門で、実力がありながらもその壁をなかなか越えられない選手がいる。そしてもう一つがアマチュアも出場が許されているプロツアーで優勝してプロ宣言をすること。宮里藍や松山英樹がこの方法でプロゴルファーになっている。

河本はアマチュアも参加できる地元開催のエリエールレディスに照準を絞りこのコースを勉強するために高校時代エリエールでキャディーのアルバイトをしていた。雨の日も風の日もコースの癖を知り、グリーンを読み、常にここで戦う自分をイメージしてバッグを担いできた。

結局、高校時代にその夢を叶えることはできなかったが、去年プロテストに合格。渋野を筆頭にアマ時代から活躍している勝みなみ、新垣比菜、畑岡奈紗、大里桃子、小祝さくら、原英莉花、淺井咲希らと共に「黄金世代」の一員として活躍するプロとなった。

そんな河本にとって今年のエリエールは特別だった。

「世界トップの選手になることが私の夢。迷ったけど少しでもチャンスがあるのならば挑戦しようと思っていた」

河本は来年アメリカで戦うことを決めていた。だからこそ勝ちたかった。そしてプロ初勝利をあげた時にキャディーをしてくれた弟・力(りき)にキャディーを頼んだ。

「このコースは全てのホールでバーティーを狙わないといけない」

初日、コースを知り尽くしている河本らしく攻めた。2つボギーはあったものの6つバーディーを奪い-4(6位タイ)の好発進。2日目はボギーなし3つバーディーでトータル-6(9位タイ)。3日目も2つスコアを伸ばしトータル-8(13位タイ)。最終日は首位と6打差でスタート。同期の渋野や、賞金ランキングトップの鈴木がスコアを伸ばすなか、最後まであきらめずに食い下がりピンをデッドに狙った。結局2つスコアを伸ばしたものの優勝した渋野には8打及ばず-11(17位タイ)で戦いを終えた。

試合後「渋野や同期がスコアを伸ばしていたのでついて行きたかった。やっぱり勝ちたかった」と大粒の涙を流した。しかしすぐに表情を変え「国内ツアーはあと1戦残っている。そこでしっかり戦ってアメリカツアーに備えて体をつくりたい。東京五輪の出場も諦めていない。世界ランキング15位以内に入れるように頑張りたい」と気丈に話してくれた。

志高く戦う彼女をこれからも応援したい。

記者プロフィール
この記事を書いた人
藤田勇次郎

1975年生まれ。奈良県大和郡山市出身。1998年入社。
高校野球・サッカー・日米大学野球・マラソン・トライアスロン・アームレスリング・駅伝・ボウリング・剣道・ビーチバレーなど各種実況担当。
「松山大学女子駅伝部」を10年にわたって取材。4本のドキュメンタリーを制作。

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