被災者を悩ます「運転資金」の現実

オピニオン室

 宇和島市吉田町の創業137年という老舗「旭しょうゆ」は、西日本豪雨で浸水被害を受けました。

被害は建物、設備、在庫品など合わせて、ざっと9000万円といいます。

営業再開へ向けて4代目、中川賢治さん(45)が今、頭を悩ませているのが「運転資金」です。

「つなぎ資金」と言った方が、分かりやすいかもしれません。

 中川さんによると、グループ補助金の第1次申請で、2500万円の交付が去年12月に決まりました。

これまでに、登録有形文化財に指定されている建屋の修復や、ボイラーを新しくしました。

 しかし、補助金の実際の入金は早くて今年5月。

支払いは一旦、自己資金で賄わなくてはなりません。

しかも、補助されるのは3分の2です。

つまり、自己負担が3分の1は生じるほか、3分の2についても、一旦、現金での”立て替え払い”が必要です。

 さらに、負担になっているのが災害前の設備投資です。

ここ3年ほど業績が好調で、数千万円の投資を行ったばかりでした。

この返済は、今年6月までの期限付きで元金返済は猶予されました。

しかし、金利の支払いは続いています。

こうした事情から、もともと手持ちの自己資金が乏しく、運転資金(補助金が入金されるまでの立て替え払い)も、借り入れで賄わざるを得ない状況です。

 営業再開へ向けては、①必要な施設や設備の確定②補助金申請手続き③支払いの現金の確保(借入)④施設、設備の設置⑤現地確認⑥補助金入金、ざっとこうした流れになります。

 こうした現実から、高齢を理由に営業再開をあきらめるケースもあります。

吉田町の商店街には、シャッターが閉まったままの「廃業」商店が数軒あります。

 中川さんは、なんとか来月の営業再開を目指して頑張っています。

『西日本豪雨はつらい思い出だけど、ボランティアなど、様々なかたちで助けてもらった人から、”人間のありがた味”を教わった』

そう話す姿からは、”恩返しのためにも、絶対、負けないぞ”という強い意志を感じました。

取材を通じて公的な補助制度、さらに、利子補給制度も存在することは分かりました。

しかし、被災者が失った資産はそれを大きく上回り、とても全てを賄いきれない、膨大な量であることも実感しました。

復興への険しい道は、まだまだ続いています。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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