台風19号被害を教訓に、肱川の堤防を考える

ニュース解説

台風19号で決壊した長野市の千曲川を見ると、愛媛県で氾濫を繰り返す、大洲市の肱川でも同じような被害が起きないか、心配になります。

肱川の堤防整備の現状を取材しました。

【意外な事実①】肱川の支川の数は全国5位

西日本豪雨後、肱川では5年後をめどに、同じ水準の豪雨(流量)に耐えられるように堤防整備を進めています。

住民説明用の資料で、ある数字を初めて見て驚きました。

肱川に流れ込む支川の数は、474河川で全国5位だというのです。

いかに大洲盆地に、たくさんの川から”水”が集まっているのかを改めて思い知らされました。

それだけの流量がありながら、勾配が極端に緩やかという特徴を持ち、流れが滞りやすくなります。

さらに通常、河口が近づくにつれ、川幅は広くなりますが(扇状地をイメージすれば分かりやすい)、肱川の場合は逆に狭くなり、水流がいわば”フンづまり”状態になります。

氾濫しやすい条件が”見事に”揃っているのです。

ちなみに、これら①支川が多い ②緩やかで流れにくい ③河口が狭いの3条件が揃って、”見事な”『肱川あらし』が発生します。

【意外な事実②】洪水は2度来る?

ところで、この支川が全国5位という数字は、台風19号被害で可能性が指摘されている、ある『特徴的な被害』をもたらす恐れがあります。

本流で流量がまず増え、一旦、水が引いても、その後、474もある支川の流量の合計が”時間差”で襲ってくる可能性があるのです。

肱川は一旦、水が引いても、油断できない川だといえます。

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こうした氾濫を起こしやすい肱川の堤防整備は、どのように進められているのでしょうか?

まず現状です。堤防の整備率は全国平均の68.2%に比べ、81.3%と高く、過去の水害を教訓に堤防整備が進む現状はうかがえます。

【堤防整備の「基本」】①整備 ②未整備 ③暫定堤防

堤防整備の進ちょく(進み具合)には、3つの段階があります。

①整備(済み)

右手奥に見えるのは大洲城です。

計画上の高さも、堤防の補強も完成した状態です。

②暫定堤防

暫定堤防は意図的に高さを押え、一定の流量を超えると、水があふれる(越水)ことを前提に造られています。

将来的には、この位置まで堤防をかさ上げします。

越水を前提に造られているため、上部も反対側の側面も決壊しないよう補強されています。

暫定堤防の上部はコンクリートで固められています。

反対側の側面も決壊しないように補強されています。

③未整備

文字通り、整備されていない区間です。(写真は整備が始まった未整備区間)

【なぜ、暫定堤防があるのか?】

堤防整備は、河川全体でみると”ゼロ”か”全て”かではなく、途中段階が生じます。

そうすると未整備区間に流量(力)が集中するため、被害を増幅させる恐れがあります。

そのため河川全体でバランスを取り、未整備区間の負担を減らしながら、整備を進める必要があるのです。

大洲市には、氾濫した場合に洪水を一旦、ためる機能を持たせた”貯水池”の役割を果たすエリアがあります。(普段は公園などとして使われている)

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もちろん、整備にはお金がかかります。

西日本豪雨クラスの洪水を越水させないことを目標にした治水対策事業は国と県あわせて約212億円かけ、概ね5年間での完成を目指し、堤防整備や暫定堤防のかさ上げを中心に行われます。

現在、計画の住民への説明などが進んでいます。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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