「ニュースな時間」毎週月曜日のニュース解説のコメンテーター山本裕治さん。
神戸で経営コンサルタントをしていますが、今治市の(株)山本塗料店の役員も務めています。
山本塗料店は、船舶から汎用まで幅広く塗料を扱う専門商社ですが、長年抱える造船業界の人手不足の問題から、ある事業に着目し、関心を集めているという話を伺いました。
年々深刻さが増している製造業の人手不足。日本を代表する造船の分野も、特に溶接工など専門技術を持つ人材不足は、建設業と人材の取り合いになっていて、より危機的な状況であるという話もききます。
部材に熱を加えて溶かし、それぞれ溶かした2つの部材を接合させ、そのまま冷やして固まらせるという溶接。重労働で火気を扱う危険なイメージがあり、若手のなり手も少なく、後継がなかなか進まないといわれています。
そんな業界の一助になればと山本塗料店が注目したのは、「溶接」を「接着材」で賄う、構造用接着剤です。
イギリスの化学メーカー、スコットベーダー社製の構造用接着剤です。鉄と鉄を高い強度で接着するもので、風力、海洋、陸上輸送、建築・建設など、世界の製造業に採用されています。
現在国内では、自動車業界での導入が進んでいるそうですが、船舶業界、特に鉄鋼船への使用は世界でも珍しい取り組みだといいます。山本塗料店では、強度や難燃性など船舶素材に求められる厳しい基準をクリアして、船舶への導入を可能にしました。
たとえば業界ガイドラインでは、構造用接着剤の基準として1平方センチメートルあたりに求められる強度は、10MPa(約100キロ)以上ですが、この素材は22MPa(約220キロ)の重量に耐えられる強度があります。溶接は点と点で強度を発揮しますが、接着剤は面積が大きくなればなるほど強度が増すことが特徴です。
また、鉄とアルミ、ステンレス、強化プラスティックといった異種材料との接合も可能になるのが、この接着剤の長所です。
(鉄と鉄、鉄とアルミ)
営業本部の大沢幹和さんは「まずは居住区内で艤装品の取り付け時に行う溶接作業をこの構造用接着剤で代用できないか。溶接による不具合などの課題を抱えている箇所での導入を提案しています」といいます。
船内での溶接作業は、溶接装置をその都度移動しなければならない上、溶融した金属の飛び散りの危険や、それを保護するための周囲の養生作業などに時間がかかること、また、熱を加えることによって、周囲の素材に生じる歪みなどへの復元作業等の発生など、工程全体でみると手間と時間がかかる場合があるといわれています。
溶接なので、素材コストが安価であることはメリットですが、溶接作業にかかる時間の人的コストを考えると、接着剤に比べると割高です。
大沢さんは、居住区内の窓枠や照明、機器の設置台、消火器の支持具など、比較的軽微な箇所や、接着面積を確保しやすく安全性が担保されやすい部分は接着剤で対応し、熟練技術が必要な重要部分は、職人が担当することで、職人の労働負荷の軽減にもなるのではないかといいます。
造船は、組み立てはもちろん、塗料などの資材や機械、電気工事など、多数の中小企業が集まる産業クラスターのなかで完成します。そんなクラスターの一員である山本塗料店は、造船会社の技術人材の不足を、他企業の問題とせず、自社も含めた業界全体の課題として解決の糸口を模索しています。
山本塗料店の新事業に対し、この秋から、今治のある造船会社が試験的に導入を始めるそうです。
現在は、コスト面から、中国や韓国の造船業に押され気味である日本の造船業ですが、小さな企業の取り組みが、業界の復興のきっかけになるかもしれないと期待を感じました。