3000人のカウンセリング

オピニオン室

毎週水曜日「ニュースな時間」で、相談事例などをお話しいただいているカウンセラーの長谷川美和子さんが、このほど本を出されました。

と見こう見 『と見こう見』創風社出版 1760円

“目の前の出来事に目を奪われ、不都合が起きているそんな時に、ちょっと周りを見ませんか(本文より)”という思いを込めた「と見こう見(左見右見)」です。

カウンセラー歴34年の長谷川美和子さんは、87歳。早くから登校拒否(不登校)の子どもたちに注目し、本人や家族を支える活動をつづけてきました。現在は、カウンセリングスペース麦(ばく)の家〈松山市宮西町〉の代表を務めています。

3000人以上のカウンセリングにあたってきた長谷川さんが、今、つらい思いを抱えている人たちの何かのきっかけになればと、6年前からラジオで語り続けている300近くのカウンセリング事例。その中から「不登校」「ひきこもり」「発達障害」などの項目に分けた68例が紹介されています。

先日開かれた出版記念パーティーでは「長谷川さんの記憶力の凄さには圧倒される」という声がよく聞かれました。

1件のカウンセリングにあたるのに、数回の面談で解決に向かうものもあれば、10年以上にわたってサポートしている事例もあります。1日に10人以上のカウンセリング、同時期に数十ものケースを抱えるときもよくあったそうです。
長谷川さんは、ひとつひとつの事例について、相手が何を話したか、どんな表情だったか、どの言葉で言い淀んだか、など、30年以上前のことでも、つい先ほどのことのように事細かく状況を覚えていらっしゃることに驚きます。
たくさんの人のカウンセリングをしていて、話がごっちゃにならないんですか?と尋ねると、
「私はね、歴史ものが好きで、同時に25冊の本を読んでるんですよ。読みかけのストーリーがわからなくなったら、カウンセラーの辞め時だと思っているんですよ」と笑います。

そして、ラジオ番組が一冊の本になったのは、この人の一途な行動力なくしてはありません。
〈須山楓さん〉
「これを本にしたいんです」と、1年前、分厚い原稿の束をもって会社に訪ねてこられました。麦の家のお手伝いもされている須山楓さんです。
原稿の束は、須山さんが、放送を1回1回丁寧に文字に起こしたものでした。
「長谷川さんのお話は、カウンセラーにとって貴重な宝。後世にもきちんと残しておくべき大切な資料でもあるんです」―。
数百枚の原稿を抱え、さまざまに説得と交渉を重ね、ようやく思いを形にしました。
須山さんに、大変だったことは何ですか?と尋ねると、
「本を出すということに対して、長谷川さんがなかなかうんと言ってくれなかったことかな」と笑います。


表紙のデザインは長谷川さんの息子さんが手がけたり(真ん中の握手写真は長谷川さんと私の手です)、本の中のカットは、「麦の家」に集う不登校やひきこもり若者たちが描いたものだったり、帯に田中社長のメッセージがあったり、たくさんの人のぬくもりが伝わります。

長谷川さんは語ります。
「ラグビーの試合を見ていて感じたんです。私がしなければならないのは、後ろにパスをしていくということ」―。

ある現役カウンセラーは「この本を、私のカウンセリングの辞書として、困ったときに開けます」と話していました。
ひきこもりや不登校、暴力、問題行動など、同じようなケースで悩む家族にとってはもちろん、サポートに行き詰っているカウンセラーなどの支援者、これから福祉や教育にかかわっていきたいと思う方、いろんなひとの心に、必ず響くものがあるはずです。

「と見こう見 長谷川美和子のカウンセリング」(創風社出版 1760円)
※松山市内の主要書店にも置いています

長谷川さんのお話は、毎週水曜日、午後4時35分頃から「ニュースな時間」の中で。

記者プロフィール
この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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