いじめを考える

オピニオン室

全国の保育園、幼稚園から小中高まで、教頭・校長先生ら800人が集まる全国教育大会が、先日(10月5日)松山市で開かれました。

プログラムのひとつ「Stop!いじめ~大人に求められること~」と題したシンポジウムのお手伝いをさせていただきました。
ちょうど前日、神戸の小学校で教員による教員いじめの問題が発覚したばかり。「教員になりたいという人が減っている。倍率が2倍を切っているところもあって、そうなると、いい人材はなかなか…」というつぶやきも聞こえてきました。
子どもだけでなく、教員たちのマネジメントも、大変な時代なんだと考えさえられます。

教育熱心といわれる愛媛、シンポジストたちの印象に残った言葉です。

◆ゼロにこだわりすぎている

「いじめ、交通事故、自殺、ゼロを目指していても、ゼロにならないという現状がある。しかし、いじめはなくならない、あってもいい、というわけではない。被害者加害者、いつなんどきどちらの当事者にもなりうる。だれか相談できる大人がいるかが大事」ー。

シンポジストのひとり、小学生2児のママで、PTA会長も務めるやのひろみさんは、
「相談できる誰か」の存在が重要と指摘します。

たしかに、子ども大人も、いじめ社会問題になる中、相談窓口はずいぶん多くなったように思います。問題が起こった時、「相談してくれればよかったのに…」というのはよく聞く言葉。でも本当につらくてどうしようもないとき、相談に行く気力さえないかもしれません。
やのさんは「(親しくない人に)自分の心のSOSは、すぐにカミングアウトできない。そのためには、普段のコミュニケーションは大事。話を聞く、無理強いしない、待っていること、肯定し続けることが大切」と語ります。
困ったときに逃げ込めるところ、この人なら話してもいいかもしれない、そう思ってもらえる存在になることが大切だと感じました。

◆「大丈夫、守ってやる」といえる先生に

「いじめを受けた子は、知られたくない、助けてほしい、その葛藤で生きている。そのSOSを感じ取る感性を持ってほしい」-。

松山市立小野中学校校長、梅木寛さん。
大学卒業後、塾講師、埋蔵文化財調査研究員、金融関係、大手電機メーカーでの勤務など、4つの職業を経て、教員の道へすすむという、異色な経歴を持ち、現場からは、「生徒指導のリーダー」と呼ばれていて、多くの先生から慕われる校長先生です。

「大人がいじめを解決してくれるのか?と問われたとき、答えに窮してはいけない。明確に、大丈夫だ、守ってやるという心強さを与える答えを出してほしい」と語ります。
そして、教師も相談しやすそうな人、そうでない人、スマホにに詳しい人、そうでない人もいる。得意不得意な部分は、チームになって補いあうことで「この学校には、信頼できる先生がいる」と思ってもらえることが大切だと訴えます。

◆100人のうち30人の現状

県警察本部生活安全部少年課長 木原昭彦さんからは、スマホで自分の裸や下着姿などを撮影して送信させる犯罪被害の状況などが紹介されました。

愛媛県では、4月1日から青少年保護条例を改正し、自画撮りを要求するだけで、罰則が適用されます。ある摘発者は、100人に要求し30人から映像を入手。そのうち10人が10代の青少年だったという現状が報告されました。保護者や先生には、そういった子どもたちのSNSの現状を知ってほしいと語りました。

◆「フロリダ知っていますか?ポケモンGOやっていますか?」

コーディネーターは愛媛大学名誉教授 平松義樹さんです。
小中大43年間の教職経験をお持ちで、「授業の鉄人」の異名をもつ平松さんは、現在、全国各地にいじめ問題や生徒指導、学級経営などについて講演活動をしていらっしゃいます。

フロリダは、SNSのやりとり中、角が立たず抜け出す「おフロに入るから、離脱する」の意味です。
ネットになぜのめりこむのか、自ら体験することが大事と、ポケモンGOはレベル40まで進んでいるという平松先生ですが、子どもがどんな世界にいるのか、大人は知らなければいけないと指摘します。
「子どもがゲームの世界にのめりこむしくみ、感情を知らずして、“やっていけない、歩きスマホはダメ”その言葉をうけいれる子どもたちではなくなっているのではないか」と提起します。

「全国の中学校で問題になっているなりすましメール。相手のアカウントを盗んで、意地悪なメッセージ・脅しを、なりすまして送る。自分は直接手を下さず友達のせいにする陰湿さ。また性的な情報やその人のセクシーな写真ばらまく“セクスティング”。これを初めて聞く、では指導はできない。子どもがいまどんな世界にいるのか、しっかり知り、ネットいじめは法律違反であることを教えてください」と訴えていました。

全国の教育現場から、学校運営のリーダーが集まるこの大会、
“教育熱心な県”ならではの、“お土産”が紹介されました。

愛媛県警からは、この日に合わせて作成したという、情報モラル指導に活用できる、映像素材・指導教材です。10月11日(金)から、愛媛県警察本部のHP(生活安全部少年課)にアップされます。ダウンロードして全国の現場で活用してほしいとのこと。

平松先生からも、いつでもどこでもSOSをキャッチできる「いじめアンケートシステム」が提供されました。愛媛大学の教職員とともに、グーグルフォームを活用して独自開発したそうです。自分の好きな時に回答可能、友達に見られない、情報収集がはやい、結果は直接担当者に行く、学校独自に質問をカスタマイズできるというものを、無料で配布しています。
愛媛県教育会のHPの「おしらせ」→「平松先生から提供されたアンケートシステムへ」

いつも気にかけているよ、みているよ、きいているよ…そういった姿勢が、あらゆる問題の解決の第一歩になるのかもしれないと感じた1日でした。

記者プロフィール
この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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