9月27日、東京・大田市場で西日本豪雨の被災地・宇和島市、玉津地区の極早生ミカン(主力品種・日南1号)の初セリが行われました。
初物ミカンへのご祝儀相場は、去年の被災直後の”お情け価格”をさらに上回る1キロ、5000円。なんと!ミカン1個に500円の値がついたことになります。
初日の平均(初値)も1キロ、300円で去年を約1割上回りました。
「絶好調」。
JA関係者は、滑り出しをこう表現します。
「絶好調」の背景に、玉津の農家が自分たちの”幸せのあり方”を全国に向けて発信した、1年間の取り組みがあったように感じます。
ある移住者の『視点』で伝えます。
◆”巨大”住宅が2万5000円、自分の幸せとは?
宮長篤志さんは大阪出身の32歳。大学卒業後、サラリーマンをしていましたが、愛媛を旅して気に入り、「理想の田舎像が玉津にあった」と、今年1月からミカン農家で働き始めました。
「山の仕事が自分に合っていると直感した」。
移住して腰を据えてミカン農家を目指す決意をし、先月25日、引っ越しを始めました。
借りた民家は畳の部屋が5つ、板の間が1つ、囲炉裏の部屋が1つ、それにリフォーム済みの台所に風呂と脱衣所がついています。
さらに嬉しいことに、この家は元ミカン農家だったため、ミカンの貯蔵倉庫や農具置き場など、広々とした倉庫も3つついています。
家賃は1か月、2万5000円。
「自分が出せる金額だった2万円から交渉をスタートし、リフォーム費用なども考慮して2万5000円で互いに納得した」(宮長さん)といいます。
近く、神戸にいる奥さんを呼び寄せ、夫婦2人の生活が始まります。
「自分の父親はサラリーマンで、夜10時ごろにならないと帰ってこなかった。子どもができたら朝、昼、晩、ご飯を家族で一緒に食べたい」
宮長さんは自分の幸せ像を、玉津のミカン農家として実現しようとしています。
◆農業としてのミカン栽培の魅力とは?
実は、農業としてのミカン栽培は、新規参入しやすいという特徴があります。
①初期投資がかなり少なくて済む
宮長さんはミカン園地を賃借から始め、必要な面積などを十分に検討した上で、いずれ自分で所有しようと考えています。
さらに、借りるミカン園地には「生産設備」にあたる「ミカンの木」が付いています。(意外と見落としがちなポイント)
トラクターや耕運機、ハウスなどの大規模な設備は必要ありませんし、スプリンクラーやモノレールなどは共同管理で備わっています。
すでに宮長さん、農具のいくつかは、地域の農家からタダでもらっています。
②比較的、現金化が早い
ミカンは自然に木になるため、次のシーズンには現金化が可能です。(これも意外と見落としがちな点。もちろん、手入れなどは必要ですが) 生活の計画が立てやすいメリットがあります。
③慢性的な人手不足
高齢化で生産者が減る一方、ミカンは「手摘みしか無理だし、今後も機械化は難しいと思う」(玉津の農家)ため、今後も一層、人手不足は進みます。
「外国人労働者も選択肢になると思う」(玉津の農家)という声すらあります。
こうした人手不足は、新規就農者にはプラスの条件に働きます。
◆「無理な人には無理だと思う」
しかし、全てが”バラ色”という訳ではありません。
労働は過酷です。もちろん、人によって感じ方は様々ですが、少なくとも”好きじゃないと出来ない仕事”であることは間違いありません。
もう一つ大切なのは、農業は土地、つまり自然に根差した産業である点です。そのため地域全体の利益が重要で、公私を超えて助け合いの意識を大切にします。
ある農家は「無理な人には無理だと思う」と表現しました。
◆玉津のミカン農家は、幸せの選択肢を発信した
私は一か月以上、リアス式海岸の急斜面に”へばりつく”ように造られたミカン園地を取材し、「よくまぁ、こんなところにミカンを植えたなぁ」と実感しました。
しかし、その園地を受け継いだ、ある37歳のミカン農家から、「このミカンはおとうちゃん、おかぁちゃんが作ってくれた」という言葉を聞き、何か、受け継ぐことの使命感のような、強い意志を感じました。
この感性は、私のような都市生活者にはない感性だと感じました。
「こういう幸せがあるんだ」
そう思いました。
西日本豪雨で多くのボランティアらが実際に玉津を訪れ、玉津という土地を知り、玉津の人と触れ合いました。
私のような感想を持った人がいるはずです。
災害という危機が、強烈に、玉津で受け継がれた”私たちの幸せ”を全国に向けて発信しました。
幸せな農家が作るミカンだからこそ、美味しいと評価されるのではないでしょうか?