優しい時間

オピニオン室

「ひとりで抱え込みがちな憂鬱さも、そばに寄り添ってくれる人がいれば、いずれ優しさに変わる。そんな想いで書いたんです」―。

28日放送の南海放送制作ドラマ「ソローキン女子の憂鬱」のテーマ曲「優しい時間」、作詞し歌っているのは、異色の経歴を持つラッパー、Cha-ka。

中四国有数の進学校から慶応大学法学部政治学科に進学、卒業後は地元南海放送に就職し、報道記者として活躍。が、すべてを振り切りラッパーの道へ…。

熊本県で生まれたCha-kaは、父に伴い4歳のとき渡米。
帰国後は、愛媛、高知に住み、高知で通った中学校は、高知の中でも“ヤンキー校”といわれる、荒れた学校だったそうです。
荒れた中学から、どうやって難関高校に進学?と尋ねると、「高知の子たちは驚くほど自由で、私も半ば遊び感覚で学校に行っていました。荒れた中学校だったから、宿題もぜんぜんなくて。その代わり、学校が終われば塾へ行って、夜も勉強。週末は、愛媛にある塾まで母が送り迎えをしてくれていました。ただ、学校の授業中に、ヤンキーの子がクラスメイトの邪魔をすることは無かったです。(邪魔するなら帰りや、と言ったことはありますが)むしろ『どうやったらその問題解けるが?』と聞いてきたり、『なーんだ、分かったら簡単やな』と一緒に問題を解き始めたり。あの環境だからこそマイペースに勉強ができたのかな」と笑います。

≪アメリカの幼稚園で≫

この頃、出会ったのがヒップホップです。友達とCDを貸し借りして、いつも聴いていたといいます。
その後、学校に隠れて同級生とロックバンドを結成し、洋楽のコピーを演奏していた高校時代。ますますラップにハマっていきます。リズムが無茶苦茶かっこいい!体が覚えているようななつかしさ。そう、アメリカのキンダーガーデン(幼稚園)時代、マザーグースをみんなで読む時間があった。韻をふんでリズミカルな詩。この語感が、ラップに近い肌感覚となっていたのかもしれません。

≪ラジオ局で尊敬するアーティストの番組ADをしていた学生時代≫

大学時代は、学外の友達やDJたちと、楽しいラップに没頭しました。
「でもラップって、社会に反抗するというか、アウトサイダー的なイメージがあるんだけど」とCha-kaに問うと、
「それってよく言われるんですよね、何か不満があったの?って。最初はそうではなく、ただただ、かっこいいラップが好きで、パーティーチューンばかり歌っていました。それからヒップホップのルーツを学んで、日常や社会の中で渦巻く感情や疑問をぶつけられるのがラップなんだと思うようになっていきました」―。

マスコミに入ってドキュメンタリーを作りたい、という漠然とした夢を持っていた学生時代、念願の放送局に入社。配属されたのは、報道部。権力側と弱者、被害者と加害者。生活保護者やシングルマザーと向き合い、不透明な援助に対する怒り。この人がなんでこんな目に遭わないといけないんだろうという社会の矛盾。泣いている人のところに行って取材をしなければならないという、自らの矛盾。
Cha-kaがこだわったのは、社会的弱者や、捨てられた猫や被災した犬。どこまでも弱い立場で、自ら声を上げることができない存在たちでした。
「記者時代はしんどかったけど、あの3年間がなかったら、私はラッパーでいられなかったと思う」―。

≪報道記者時代、捨て犬・猫にスポットをあてた企画で中四国の賞を受賞≫

報道部からラジオディレクターに異動になり、ほどなく、Cha-kaから、当時ラジオ業務部長だった私に相談がありました。
ケツメイシが弟分を募集するというオーディションに応募し、合格。デビューの為に月に何度か上京しなければならず、仕事との両立が厳しいと思う、ということでした。
仕事は真摯にこなすし能力も高い、このまま会社にはいてほしいが、夢もかなえさせてあげたい、でも、ふざけるなどちらかを選べと言われるか…いろんなことを考えながらおそるおそる田中社長に報告に行くと、
「いいじゃん、放送局員のラッパーなんておもしろいじゃん、やってみたら!」

いまは会社員を卒業し、アーティストとして活動するCha-kaですが、安定した生活を捨てて、夢に突き進んだことをどう思っている?
「定期的な収入もなくなって大変だけど、やっぱりやってよかったなと思います。生活が変わったことといえば、これまで好きなものはすぐ買ってしまう性格だったけど、ガマンするということを、初めて覚えたかなあ」とジョークで返します。
後悔したことは?
「ドキュメンタリー番組を見たとき、これもやりたかったな、と思う時があります。でもやらなかったら、ずっと思っていたと思う。挑戦してよかったな、とはっきりと言えます」-。

東京での活動は、自分の中では期限を決めているというCha-ka。
「そばに寄り添ってくれる人がいれば、いまの苦しさも、いずれやさしさに代わる」という思いを、どこにいてもどんな形でも伝え続けてほしいと思います。


ドラマ「ソローキン女子の憂鬱」主題歌 ≪優しい時間/Cha-Ka

『ソローキン女子の憂鬱』9月28日(土)11:55~放送

記者プロフィール
この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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