<池袋暴走事故>「上級国民」は逮捕されない?

ニュース解説

放送局や新聞社などが19日、高知市で「マスコミ倫理懇談会全国大会」を開き、約300人が参加。実名報道の意義などについて議論しました。

今大会の大きな特徴の1つは、報道倫理の世界に”ネット報道”という分野が登場し、例えば、「実名・匿名報道」というテーマに、ネットの世界で起きている問題も加わりました。

現場からの報告には、ヤフー編集本部の担当者も加わりました。

テレビ局や新聞社など既存メディアが、ネット報道の『報道倫理』で果たすべき役割について考えます。

◆既存メディアの当たり前は、当たり前でない?

読売新聞社会部デスクの足立大さんが、4月19日、東京・池袋で発生し、合わせて12人が死傷した暴走事故のネット報道と、SNSで見られた反応などを取り上げました。

足立さんは、事故の加害者に「旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長」という呼称を用いたところ、「2人も殺しているのに、なぜ容疑者でないのか?」という質問があったり、SNSでは「元官僚という『上級国民』だから逮捕されない」という内容が拡散されたりして、”思わぬ反響に驚いた”と報告しました。

私も驚きました。デスクにとって、このケースは”容疑者”を使わないのは当たり前。「『上級国民』だから逮捕されない」に至っては、まともに取り合う意見?だとは思えないからです。

しかし足立さんは、こうした質問や意見に5月10日付の読売新聞オンライン Webコラム・解説で、丁寧な説明で応えています。

その真摯な報道姿勢に、既存メディアである新聞の”底力”を感じました。

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私のこれまでのテレビ報道での常識でいうと、特定の容疑で逮捕されない限り、”容疑者”は使いません。事故発生直後、加害者は逮捕されておらず、”容疑者”という呼称を使わないのは”当たり前”だというのが実感です。

とはいえ被害は大きく、今後、加害者の過失などが判明する可能性もあります。”さん”を付けるには違和感があるし、ならば、肩書(元院長)にしようと「思考」は進むわけです。

ところが、こうした私たちが長年、繰り返してきた「思考」は、私たちが”当たり前”と思っているルールに基づいた「思考」であり、視聴者も”当たり前”と思っているとは限りません。

現実に、愛媛県でも誤認逮捕は起きています。さらに、逮捕されても起訴されないケースも結構あります。

私たちのルールには、対応が難しい例外があるのが現実です。

そういう”気づき”、場合によっては『市民の視点』を与えてくれる点で、ネット報道は既存メディアに大きな影響を与えています。

◆既存メディアとネット報道の今後の関係は?

では、SNSで見られた「『上級国民』だから逮捕されない」という内容については、既存メディアはどのように対応すべきなのでしょうか?

そもそもこの発信内容は、報道とは分けて考えるべきだとは思いますが、あるニュースに関連して根拠のない情報が広く流布した場合、誰が責任を持つのでしょうか?

私は、基本的にネット報道を正しい方向に導き、市民社会の役に立つ報道を守るために、私たち既存メディアも一定の役割を果たすべきだと考えています。

足立さんの読売新聞オンライン Webコラム・解説は、正しい報道を守る立場の人間にふさわしい優れた解説記事で、その役割を果たす内容だと感じました。

もちろん、そのコスト(記事を書くにはコストがかかる)をなぜ、既存メディアが負わなければならないのか?というモヤモヤ感は残ります。

しかし、若い人を中心にネット報道が存在感を増す中、その世界を正しく”育てる”のも私たち既存メディアの役割の一つ・・・という姿勢は、尊大すぎるでしょうか?

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(54歳)立教大学卒。1988年南海放送入社後、新居浜支局記者、県政担当記者などを経て、報道部長。現在、執行役員報道局長・解説委員長

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