被災ミカン③「暴落」を知らない世代が産地を担う

オピニオン室

今月4日、被災地・宇和島市の玉津共選(JAえひめ南)がミカンの出荷を間近に控え、「出荷協議会」を開きました。去年は西日本豪雨で開催出来なかったため、2年ぶりの開催となります。

前列にはズラリと関東の市場関係者が並びました。

東京、横浜、八王子、前橋、宇都宮など市場関係者が今年のミカン価格の見通しや、果物市場を取り巻く環境の最新情報などを説明しました。

ポイントは①去年は災害の中、前年の8割近い量を出荷してもらい頭の下がる思い。しかし、かなり傷みのある商品もあり、お客様には迷惑をかけた。今年は是非、いい品物を送って欲しい。

②ミカンは現時点で、量が去年より若干、少ないという印象。品質さえよければ”そこそこの販売”(市場関係者)は出来る。

③「お金を獲れる時期に、お金を獲って欲しい」(市場関係者)。一番欲しい時期は12月。新しい品種に取り組むよりも、12月の温州ミカンの出荷に力を注いで欲しい、の3点です。

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◆今年は「玉津ミカンの”品質”復活」が何より重要

「玉津ミカンは味が良く、ファンも多く、ブランドとして市場で確立している。若手農家も多く、我々市場も今後の玉津に産地として非常に期待している」(東京青果・出島由一さん)

こうした期待の一方、去年は西日本豪雨の影響で傷みのあるミカンが箱に混じるという反省がありました。

「去年は”お情け”を頂いた」(玉津共選)

今年は期待に応える高品質のミカンの出荷が”絶対条件”となっています。

◆”暴落”の苦労を知らない世代が、産地の担い手に

「玉津はパッと見た感じ、若い人が多い」

市場関係者が口を揃えます。

玉津では世代交代が進み、例えば37歳のある農家は「自分が中学生くらいのころ、父親がミカンで苦労していたのは見て知ってるが、ここ10年くらいはずっといい」と話します。この農家は年間、約1500万円の売上があるといいます。

さらに、ミカンの価格暴落で苦労した時代を「知らない」世代が、玉津の主人公になろうとしています。

33歳の3代目という若手は「ミカンで苦労したという話は聞くが、自分は悪い時代を知らないので実感がない」といいます。この農家は4ヘクタールという比較的、大きな面積で栽培し、売上は2000万円程度といいます。

市場関係者も「ミカンは全体量が減って、もう価格の暴落も考えにくい。安定して売れる時代になっている」と話します。

◆順調の陰に”死角”はないか?

こうした”安定”が業界に”心地さ”を与える一方、『不確実なリスク』も存在します。

「これから輸入品の絡みが出てくる。そういうものに負けない、いい品質のものを作っていくことが、これからの国産果実に求められる」(関東市場関係者)

輸入オレンジ”ショック”を知るベテラン農家は警戒します。

「アメリカは農業国。国内で12月にはミカンの供給不足が生じている現状を知れば、自分が大統領なら、そこを狙って輸出を仕掛けようと考える」(玉津共選長・山本計夫さん)

玉津では、若手農家が中心となって西日本豪雨という歴史的な天災を乗り越えることで、一段と強さを身に付ける可能性が高いと取材を通じて感じます。

今後は過去の経験や反省を産地でストックしつつ、いかに若い世代が新たな産地づくりに挑戦してゆくかが問われます。

◆新品種への対応も、大きな戦略的テーマ

協議会の中で市場関係者と農家の両方から度々、話題に上ったのが、県のみかん研究所が開発する紅プリンセスなど新品種への取り組みです。

「新しい品種に取り組むのもいいが、一番大事なのは農家がお金を獲ること。12月が一番の最盛期で、お金の獲れる時期。この時期に向けた、味のいいミカンを作る努力をした方が農家のためになる」(協議会での関東市場関係者の発言)

市場関係者から見れば、今、確実に”お金になる”品種と時期があります。(ちなみに、紅プリンセスは3月~4月が出荷時期となる見通し)

特に玉津の場合、「玉津というブランドは突き抜けている」(関東市場関係者)ので、今、売れるものに集中して取り組んで欲しいという希望があります。

一方、世代交代が進む中、中長期的な視点で、現在の利益は度外視しても、一定の割合を改植するという考えの農家もあり、今後のテーマになっています。

ただ、ミカンは自然が育む農作物。工業製品と違い、適地適作が大前提となります。

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いよいよ今週、玉津ではミカンシーズン到来を告げる、極早生ミカンの収穫と出荷が始まっています。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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