永江さん『完全無所属』の破壊力~自民の脅威に

オピニオン室

おととい(21日)投開票された参議院選挙で、『完全無所属』という新しい政治スタイルを掲げた永江孝子さん(59)が、自民党公認の新人に8万6000票あまりの大差をつけて当選しました。この票差は自民党県連にも大きな衝撃を与えています。”自分が考え出した完全オリジナル”という『完全無所属』という立ち位置は、どのように理解すればいいのでしょうか?保守王国・愛媛の歴史的転換点になるのでしょうか?聞きました。

野党系候補が、自民党公認候補に国政全県選挙で勝つためには、自民党以外の政党の票を1つにまとめなければ、数的に勝てません。(実際には、その上に無党派層の上積みが必要)

そのため永江さんも今回、野党統一候補として戦いました。ところが、見落としがちなのは永江さんがどの政党からも公認はもちろん、推薦も受けない『完全無所属』を貫いた点です。

この点について永江さんは「自分で新しい政党を創るくらいじゃないと、愛媛では自民に勝てないと思った」と話します。それは永江さんが7年間の浪人生活を通じて実感した”政党の頼りなさ”から生まれた発想です。(永江さんの政治家としてのスタートは、民主党の衆議院議員)

例えば、社民にせよ、共産によせ政党から推薦を受けると、どうしても政策に縛られます。

「あらゆる政党のしがらみから解き放たれて、コツコツと地元を歩いた経験をもとに、自由に政策を創り上げたかった」(永江さん)

自民以外のあらゆる政党から推薦を受けるのではなく、その逆の、自民以外のあらゆる政党からの推薦を”拒絶”することで、真に愛媛に根差した政策を主張することが可能になったのです。

その分かりやすい例が、原発政策です。

「原発は無い方がいいけど、立地県である愛媛では原発関連事業で生計を立てている方もいる。国が代替エネルギー政策をしっかり立てるなど、立地県対策を手当てしないと即時停止など無理」と主張します。

さらに、改憲についても、「改憲論議そのものは国民の権利」とはっきり主張します。しかし、現在の安倍首相の進めようとする改憲論議は、内容的に必要性を感じないし、そもそも十分な説明がないとはねつけます。

『完全無所属』とは、”脱・既存の政党政治”というニュアンスに近いのですが、実際には、永江さんの主張は保守系リベラルの政策のような”柔らかな安心感”を与えているように感じます。

安倍1強時代に、自民党政治が失いつつある”弱者に寄り添った保守”の主張を、永江さんが代弁しているように聞こえるのです。

これは自民党にとっては脅威です。なぜなら自民党支持層の”票”を奪ってゆくからです。

現に、南海放送の投票日の出口調査によると、永江さんに投票した有権者の約3割が、自民党支持層だったという結果が出ています。

ちなみに、無党派層からの票も約3割ですから、自民票と無党派層の票の2つが、永江さんの”当選エンジン”になっています。

もちろん、今回の結果は永江さんの人柄や努力に負うところが大きいと思います。永江さんは自前の後援会組織を県内20市町に設立していて、一種の”ファンクラブ”になっています。従来型の政党支部とは、また異なる力を発揮するのです。

自民は自らの候補者を”最良の候補者”とし、現段階で、「時間がなかった」などと敗因を分析しています。

今のところ、責任問題は表立って出てきていないようでうすが、これだけの票差で敗れた以上、さて、どうなるのでしょうか?

最後に、永江さんの発言で驚かされた言葉を1つ。

「選挙はノウハウの集積。これまで愛媛の野党にはそれが無かった。私にはそれがある」

そこを理解し、真面目に取り組んだ野党候補が、愛媛に何人いたでしょうか?

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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