今井琉璃男さんを”取材した”思い出

オピニオン室

私にとっては、最後まで
「愛媛新聞記者」だった
今井琉璃男さん(愛媛新聞社相談役)が
94歳で亡くなり
お別れの会が今月22日開かれました。

現場記者からスタートし
愛媛新聞社社長を務めた今井さんと
親しくさせていただいたのは
8年ほど前からと短いのですが、
”記者の今井さんを記者の私が取材した”
のが出逢いという
ちょっと珍しい関係でしたので
取材対象としての今井さんの思い出を
今年最後の解説記事にしたいと思います。

今井さんと
初めてお会いしたのは2015年、
愛媛新聞に連載された
愛媛の戦後70年を
記者の視点で振り返るシリーズ記事が
「温故知新」として出版された時でした。

連載記事が面白かったので
噂に聞く今井瑠璃男”記者”とは
どんな人物なのか?と
本の出版についてインタビューする
という理由で訪ねました。

夏も終わろうとしていたころで
お隣の愛媛新聞社まで歩くわずかな時間
スコールの様な
激しい雨に降られたのを覚えています。

インタビューすると
その話の面白さ、人柄に引き込まれ
会話なのか、インタビュー(取材)なのか?
分からなくなりました。

逆に、すぐ分かりました。

しゃべらす前に
楽しい会話に持ち込む・・・。

あー、これね。

人懐っこさと、話の面白さ
そして安心感。

”しゃべらせる”記者の神髄を感じました。

今井さんに聞きました。

「記者に必要な資質はなんですか?」(三谷)

今井さんは答えました。

「あつかましさ」
「度胸」
「懸命さ」

最後にその3つの資質を支える根っこに
「真心」が必要だと強調しました。

私はその時、
3つの資質と
1つの心のうち
どれかが欠けたと自分が感じた時が
記者の辞め時なんだな・・・と
ぼんやりと感じました。

今、今井記者は
最後までそれらを失わなかったんだと
羨ましく、また心強くも思います。

今井さんが使う言葉は
かなり攻撃的と感じる時がありました。

にもかかわらず
一緒にいる時の穏やかな安心感。

なぜなのでしょうか?

今井さんが記者になった理由を聞きました。

「戦争で日本に原爆を落とし
無辜の市民を殺したアメリカは許せない」

「かたきうちをしてやる
と思った」

(かたきうちの方法については
実際には相当に激しい内容を口にした)

「戦争が終わって
学校に入りなおして学問をすると
かたきうちで戦争をして
本当にかたきうちが出来るのか?と
反省した」

「戦争をせずに
済ませるにはどうすればいいか?
情報が一番。
情報がないから日本は戦争した」

戦争を二度とおこさせない、
そのために正確な情報を
県民、国民に伝える・・・という強い信念。

この絶対に揺るがない信念が
安心感の理由だと感じました。

こうした強い信念を持って1952年春、
愛媛新聞記者、
今井瑠璃男が誕生しました。
県政と県経済担当だったそうです。

取材後、
携帯電話でやりとりするような
いくらか親しい関係が始まり
今井さんの書いた本で
どうしても手に入れることが出来なかった本を
おねだりしました。
(私はかなり”あつかましい”)

『愛媛県政二十年』(今井瑠璃男著)
愛媛県の戦後政治の核心を克明につづった
250ページに及ぶ大作で
昭和41年(1966年)5月、
私がまだ0歳の時に出版されています。

存在は知っていたのですが
手に入れようがなく
「本人なら持っとるかな?」と思って
頼んでみたとことろ
今井さんから
「ちょっと待っとけ、
家、探してみちゃろわい」。

そして数日後、
「倉庫の中、探したら
一冊だけ残とったわい」と
いただくことが出来ました。

なんと!50年もの間、
今井さんの自宅の倉庫で眠っていた本を
今井さんご本人に探してもらい
いただいたことになります。

傷みの激しさに
とても愛着が沸きます。

本の冒頭、高橋士社長が
(もちろん、私は存じ上げない
名前はなんとお読みするのでしょうか?)
「歴史は過去を継承しつつ
それを否定するところに成り立ち、
また発展の要因もあるとみられる」と
述べています。

凄まじい歴史観。

今井記者を育てた
愛媛新聞社の底力を感じました。

この時のインタビューで
私が最も聞きたかった質問への
今井さんの答えで
記事を終えたいと思います。

「新聞って
未来も生き残りますかね?」(三谷)
(これまた”あつかましい”質問)

今井さん・・・

「絶対に残る」

「わしは生まれ変わっても
新聞記者になる」

「もし新聞社がなかったら
わしが新聞を作る
新聞社を創る」

「新聞記者が楽しかった」

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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