西日本豪雨1年⑤「自然の河川に近い」放流へ

オピニオン室

西日本豪雨による野村ダムの緊急放流で、5人が亡くなった西予市野村町で7日、追悼式が行われ、犠牲者の冥福を祈ると共に復興への決意を新たにしました。

市は「同じ規模の豪雨があっても、今後は決して1人も犠牲者を出さない」と決意し、野村ダムは「より自然の河川に近い」放流に操作規則を変更する”歴史的”一歩を踏み出しました。野村ダムの全国初の様々な取り組みは『愛媛モデル』として、他のダムに取り入れられ始めています。

「より自然の河川に近い」放流とは、どんな放流方法なのでしょうか?そして、この変更はどの程度、住民に知らされ、理解されているのでしょうか?野村町で取材して疑問に感じましたので、取り上げたいと思います。

◆「これまでの経験をもとに避難する」の是非は?

大雨警報が発令された6月30日、野村町での住民インタビューで、『避難する、しないの判断基準』を聞いたところ、ある高齢女性は避難しなかった理由について「自宅から肱川が見える。今までの経験で大丈夫だと思った」と答えました。

そういう視点で取材すると、確かに肱川近くの住宅からは結構、川の水位が見えます。

別の男性は「自分の目と経験で危険は分かる」と話しました。そして、「まだ、梅雨は続く。きょうくらいの雨で避難していたら、自宅と避難所を何往復しないといけないのか」と避難の負担にも不満を漏らしました。

ところで、こうした『自宅から見える肱川』『今までの経験』で避難する、しないを判断することは、どの程度、”合理的”なのでしょうか?

これまでのダム放流のイメージ図です。

ダムの放流量は毎秒300トンの次は毎秒400トンと階段状になっていたため、分かりやすく言えば、”一旦、300トンの放流でダムは耐え続け、次は一気に400トン”となります。

ところが、今年の雨期から『階段状』から『なだらかなカーブ』方式に放流方法が変わっています。

具体的には、流入量が300トンを超えた場合、超えた量の約8割を上乗せして放流する方法になっています。

つまり住民には、これまでと、肱川を流れる水量や増え方が異なって見えるというのがポイントです。その結果、これまでの経験が当てはまらなくなる可能性があります。

◆より自然の川の流れに近く・・・

この変更について野村ダム管理所の専門官、田村剛さんに聞きました。

三谷>今までの水の流れ方と違ってくるから、意識を変えないといけなくなりますか?

田村>そうですね。これからについては、よりダムが無いような河川に近いような水位の上昇になってくるかと思いますので、注意いただきたいと思っています。

ダムの操作の変更で、”階段状”に一気に水位が上がるという状況が起こりにくくなることは分かりました。しかし新たに、ゆるやかに、以前より早めに水位が上がる可能性があります。

今後、どういう点に気を付ければいいのでしょうか?

◆「水位を見て判断」は、後手に回る危険が・・・

西予市の総務企画部危機管理課の清水宣行さんに聞きました。

三谷>野村町には、実際に川の水位を見て避難する、しないを決めるという人がいますが、危険ですか?

清水>なだらかに水位が上がるという改善がダムで図られましたが、どうしても上流でどの程度、雨が降ったかで、どんどん放流量が増えてゆくということがあります。今、現在の水位だけ見て判断するのは後手後手に回る可能性があります。

野村ダムの操作規則の変更は37年の歴史の中で2度目、1995年の大洲市での浸水被害を受けて以来です。

これまでの経験を単に当てはめて、危険の度合いを判断するのは、極めて危ない判断であることが分かります。

もちろん、気象状況は刻々と変化しますから早めの避難を上回る”合理的な”安全対策は現状、ありません。

7日に、追悼式で誓った復興への誓いは、私たちが生き残ることへの誓いでもあります。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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