夏の高校野球県大会 それぞれの夏 ~東温高校 田中望 選手~

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その選手は「のん」と呼ばれている。

真っ黒に日焼けした顔から白い歯が見える。グラウンドで常に笑顔を見せる東温高校3年田中望(のぞみ)選手。県内の3年生で唯一の女子野球部員だ。ポジションはセカンド。どうしても東温高校で野球がしたくて入学してきたという。

田中望選手:「もともと野球が好きでプレーしたかったけど中学校の時は勇気がでなくてできなかった。でも中3の夏。県大会の準決勝を見て絶対東温で野球がしたいという思いが強くなって」

「高校球児」になることを決意させたのは第98回全国高校野球選手権愛媛大会の準決勝。新田―東温戦。先制されながらも最後まで諦めずに強豪高に立ち向かう東温高校野球部の姿に胸を打たれた。試合は4-1で新田の勝利。グラウンドで涙を流す東温ナインに拍手を送りながら自分の中で決意が出来た。

「東温で野球部に入る!」

それまで野球経験はなかったが、すぐにマドンナ松山という女子硬式野球チームに入り基礎から学んだ。そして東温高校入学後すぐに野球部の門を叩いた。当時の和田健太郎監督は彼女に対し「顔にボールが当たることがあるかも知れないし、危険なスポーツだよ。それでもやりたいのか?」と覚悟を問うた。「大丈夫です。頑張ります!!」という返答を受け入部を認めた。それ以降、他の部員と同じ練習を課し「女子」扱いは一切しなかったという。

和田健太郎:「彼女は本当に頑張り屋さん。どんなにキツイメニューにも根を上げなかった。他の男子部員も彼女に負けるわけにはいかないと気合が入っていた。本当に良い影響を与えてくれた」

高校2年から指導者が変わり82年ぶりに松山東を甲子園に導いた堀内準一さんが東温高校の監督に就任。堀内監督は就任当初女子部員がいることに驚いたというが彼女の野球に対するひたむきな姿を見て「特別に扱わなくていいんだ」と気づき前任の和田監督と同じように男子部員と同じメニューを彼女に課した。

彼女は3年間まったくブレることなく野球部員であり続けた。

6月18日。松山中央高校との3年生お別れ試合。彼女は8番セカンドでスタメン出場。エラーもたくさんあったが、ライト前ヒットを放つなど同級生たちと最後の試合を楽しんだ。

田中望選手:「公式戦には出られないけど野球ができることが幸せで楽しかった。初心者の自分を支えてくれた同級生と最後までやり抜けたことが私の誇り。夏の大会はスタンドから誰よりも大きな声で声援を送ります」

7月13日に開幕する夏の高校野球愛媛大会。東温高校は17日の第1試合坊ちゃんスタジアムで松山西高校と対戦する。

記者プロフィール
この記事を書いた人
藤田勇次郎

1975年生まれ。奈良県大和郡山市出身。1998年入社。
高校野球・サッカー・日米大学野球・マラソン・トライアスロン・アームレスリング・駅伝・ボウリング・剣道・ビーチバレーなど各種実況担当。
「松山大学女子駅伝部」を10年にわたって取材。4本のドキュメンタリーを制作。

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