繁盛店にはワケがある

ニュース解説

平日の夜、市内中心部の繁華街から離れているのに、いつもお客さんで賑わっている居酒屋が会社の近くにあります。

オープンしたのは8年前。飲食店の業界内では、1年後に生き残っている店が5割、3年後は3割、5年後には1割とも言われているそうですが、この立地で繁盛し続けている理由を知りたいと常々思っていました。

オーナーは福岡初彦さん(63歳)。
17年前に脱サラしてリース会社を起業、ひょんなことから飲食業を始めることになりました。当初はもつ鍋店を開業し、もつ鍋ブームに乗って西日本で8店舗を展開。しかし2007年頃のブーム終焉とともに業態の変化を迫られたそうです。

福岡さんの出身は宇和島の漁師町。中学時代の弁当のおかずは、タッパー満杯のウニにイセエビ、アワビが定番だったとか。なんとも豪華な弁当ですが、フタを開けるたびに、「これがソーセージだったらよかったのに」と思ったそうです。
そんな故郷の豊富な食材を生かした店舗で勝負しようと、命運をかけたのがここ「釣天狗」でした。

一見、飲食業をするには不向きなこの立地、実は伊予鉄道の市内電車・郊外線の「大手町駅」に近く、JR松山駅にも徒歩圏内。リーマンショック後、2次会にお金をかけなくなった風潮を受け、福岡さんは考えました。「1次会でアルコールを飲み、公共交通機関で帰る人が増えるはず」だと。

福岡さんが新規開店にあたって重要にしているポイントは3点。一つは、改装費用はなるべく抑えること。厨房器具はリサイクル店で調達し、改装の設計も独学でこなしています。二つ目は立地の利点を見抜くこと。駅から徒歩3分圏内で、交通量の多い交差点の近く。車で信号待ちをするサラリーマンにもよく分かるようにと「とにかく目立つ外観にしました」。

三つ目は主役のメニュー。

「漁師町らしい、ダイナミックさを演出するのは刺身」と言い切るように、1切れの厚みが1センチはあろうかという豪快さ。実家から直送したブリをたたきにした「ブリ塩たたき」は、この店の大ヒットメニューです。

ブリ塩たたき

松山以外にも、大阪、神戸、京都に出店し、県外店で特に人気があるのは、じゃこ天です。大阪に出店を計画した16年前、「宇和島じゃこ天」と名乗るものは、どこも200~300円ほどで出されていることに疑問を抱いた福岡さん。ちゃんとした素材で丁寧に作った「本物」の宇和島じゃこ天をメニューに入れ、500円で提供したところ、人気の商品に。ただ安いだけではなく、本来あるべき適正な価格で商品の価値を認めてもらう大切さを学んだそうです。

大阪梅田店

宇和島じゃこ天

リーマンショック後、長引く景気停滞の中でも、ほぼ右肩上がりの売り上げを出している福岡さんの店舗ですが、失敗もあったそうです。味もよく、売れると思って始めたラーメン店を1カ月客足が伸びなかったため、その半月後に撤退。新規出店の際は、現地で自ら1日中時間帯を変えて歩き、人の流れやお客さんの層を見極めます。一方で撤退を決めるリミットは3カ月。「経営には慎重かつスピーディーな判断が大事」と考えています。

オーナーや店員の魅力でファンを増やす手法もありますが、「人の魅力で人を集めると、人に頼るようになる。人間関係で来店してもらうのではなく、商品に魅力があるから来たい、と思ってもらうのが一番重要」と説きます。
人気のコースメニューも、常に新しいメニューを取り入れて、飽きないように工夫しているといいます。

オーナーの福岡さん(中央)

街はずれの人気店、その裏には時流を読んだ綿密な戦略があることを実感しました。

男組 釣天狗 松山店
松山市味酒町1-1-8  電話 089-921-4911

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この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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