西日本豪雨1年④検証・野村町の危険な”後遺症”

ニュース解説

去年、ダムの緊急放流で肱川が氾濫し、5人が死亡した西予市野村町に再び、梅雨がやってきました。備えに”死角”はないのか? 梅雨入り後、立て続けに大雨に見舞われる西予市を取材しました。

◆市は”厳戒態勢” 徹夜続く・・・

「(梅雨入り翌日の)27日、西予市には『大雨警報』が出される可能性が高い」

こうした気象情報を受け、西予市危機管理課は前日から夜を徹して情報収集にあたるなどの態勢を取りました。

26日の時点で、「あす27日の朝6時には避難所を開設出来る態勢を整えておくように」と各地域に指示。実際に雨はさほど降りませんでしたが、事前の指示通り朝6時には市内25カ所に避難所を開設しました。

さらに、避難所開設に合わせて、各世帯に配布された防災行政無線で「早めの避難を心がけてください」と呼びかけました。

この時点で西予市に出されていた注意報は『雷・強風・波浪』の3項目。『大雨・洪水』注意報が出される前に、市内全地域で避難所を開設するという徹底ぶりでした。

こうした徹夜の”厳戒態勢”は、梅雨入り後初めて『大雨・洪水』警報が出された30日も続きます。

気象庁からの予報を元に早めの対応を徹底し、警報が出される15分前の朝6時40分には、市内25カ所で避難所開設が完了していました。

◆通常より一段階、早めた「警戒レベル」

西予市は西日本豪雨被害を踏まえ、国が今年から新たに始めた「警戒レベル」の発令を、通常の自治体より一段階、早めて運用しています。

実際、6月7日と14日には『大雨注意報』で、通常の運用より一段階早めた「警戒レベル3」を発令しました。

◆難しい判断を迫られる自治体

しかし、27日は『大雨注意報』が発表されましたが、市は実際の雨の降り方なども総合的に判断して、「警戒レベル3」の発令を見送りました。

さらに、30日は「警戒レベル4」が原則、発令される『大雨・洪水』警報が出されましたが、予報なども参考に「警戒レベル3」の発令に留めました。

これまで市が発令した「警戒レベル」をみると、基準を単純に当てはめるのではなく、実際の雨の降り方や予報なども総合的に加味し、その都度、判断していることが分かります。

市の防災担当者は「あまり頻繁に避難勧告などを出し、”避難は無駄だった”と思わせると、大切な時に避難をためらわせることにつながりかねない」と判断の難しさを語ります。

◆その時、野村町の避難所では・・・

一方、野村町では西日本豪雨の”後遺症”とでも呼ぶべき現象が起きています。

27日、30日ともに市からの指示通り、朝6時台には避難所の開設が完了していました。

しかし、27日は避難者ゼロ、30日は2人が避難しました。

◆「自分で水位を見て判断する」

当日、野村町で『避難する、しない』の判断基準を聞くと、ある男性は「市は早め早めに避難を呼びかける。それはいい。しかし、それだと避難所を行ったり来たりしないといけない。自分の目と経験で危険は分かる。行政やダムは信用しない」と答えました。

別の女性も「きょうも”早めに避難を”という呼びかけを聞いた。しかし、今までの経験で大丈夫だと思った。本当はいけないかもしれないが、自分で危ないと思えば逃げる。去年も水の量を見て逃げた」と本音を漏らしました。

2人とも西日本豪雨で浸水被害を受けており、その”後遺症”から情報への不信感が生まれ、自分で確かめた事実しか信用しない、という弊害が生まれているように感じました。

◆被害は”洪水”だけではない

市もこうした”心情”を把握していて、大雨による被害はダム放流による洪水ばかりではなく、例えば土砂災害など山間部特有の災害にも備える必要があると、防災ワークショップを開くなどして説明しているといいます。

こうした地域特性にいかに対応するかは大きなテーマです。例えば、ダム直下に位置し、放流による洪水で歴史的被害を受けたばかりの野村町と、同じ西予市でも海岸部に位置し、地震による津波に備えなければならない明浜町では、防災の優先順位も住民の意識も大きく異なります。

西予市は目の前の梅雨への対応を迫られつつ、市民の防災意識の啓発、信頼の回復、地域特性への対応と様々な防災テーマを抱えています。

もちろん依然、復興も課題となったままです。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(54歳)立教大学卒。1988年南海放送入社後、新居浜支局記者、県政担当記者などを経て、報道部長。現在、執行役員報道局長・解説委員長

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