棚田フレンチから考えるコメの未来価値

オピニオン室

日本一、美味しいコメと認められた
東温市の棚田のすぐそばに
古民家を改装したフレンチレストラン
「Luciole(リュシオル)」がオープンしました。

経営は
シェフの藤原弘輝さん(神奈川出身・26)、
華道家の なつ未 さん夫妻。

そばには
なつ未さんの叔父、坂本憲俊さん(70)が
栽培する見事な棚田が広がります。

◆ミシュラン2つ星で修業

藤原さんは
東京のミシュラン2つ星フレンチ
『クレッセント』で5年間修業。

コロナ禍でクレッセントが閉店したため
坂本さんが所有する築150年の古民家で
独立する道を選びました。

クレッセントはフレンチの王道をゆく
グランメゾンとして知られました。

Lucioleの料理も古典的なフレンチが軸で
中でも、藤原さんは魚料理が得意分野。

愛媛の海の幸と
王道フレンチとの出会いが
Lucioleの大きな楽しみです。

◆フレンチと来島海峡産アコウの出逢い

この日の素材は来島海峡(今治)産のアコウ。

フライパンからオーブンへと
強弱をつけて熱を加えた白身は
「虹色が出る具合に仕上げる」(藤原さん)。

表面に、
わずかに”ラメ色”が浮かびます。

『アコウのナージュ仕立て
夏のコンディマンと共に』

黄金色のソースは爽やかなトマト風味。

棚田を吹き抜ける夏の涼しい風を
舌で感じるようです。

◆クレッセント直伝のスペシャリティ

クレッセント直伝のスペシャリティ
(店を代表するメニュー)
『ロッシーニクレッセントスタイル』

ヒレ肉の火入れが特徴的です。

ヒレ肉の中心部まで
人肌の温度になるよう熱するため
周りを黒いパン粉で包み込み
緩やかに熱を通します。

その時、温度管理をする道具が
クレッセント直伝の
オリジナル”人肌”温度計。

コルクと釘状の金属で出来た
独特の”温度計”を肉に差し込み
実際に口元の肌で触れて
温度を確認します。

1日2組のゲストを華やかに迎えるのが
華道家、なつ未さんの生け込みです。

クレッセントで
花の生け込みを担当していて
夫の藤原さんと出会ったそうです。

◆コメ農家の壮大な実験

Lucioleの
すぐそばの棚田で栽培されるコメは
「米・食味分析鑑定コンクール」で
2年連続で金賞に選ばれた
愛媛を代表する高品質米。

去年の金賞は
全国からの応募5140点のうち
19点のみに与えられました。

一方、コメの消費量は減少の一途、
価格を取り巻く環境は厳しく
細かな数字の説明は省きますが
通常のコメ作りでは
ビジネスとしては全く成り立たない・・・
といっても過言ではありません。

*****

”コメの価値を
多角的に問い直してみよう”

コメ農家、坂本さんと
フレンチレストランを始めた
藤原さん夫妻の
「起業家的視点」です。

コメの価値は
食べる価値だけではありません。

自然を守る価値。
地域を守る価値。
国を守る価値。

そして、競争一辺倒の社会から
距離を置いて、落ち着いて
生きる意義を考える場所、棚田の価値。

それぞれの価値から
わずかでも収益があげられれば
コメの市場が膨らむ
つまりコメ ビジネスが
成長するのではないか?

期待と信念への挑戦です。

レストランの窓から見える
散歩したくなる棚田の風景。

棚田を潤す水の美しさ。

そして、デザートで出される
コメのアイスクリームで知る
コメ料理の可能性。

コメに新しい価値を見出し
収益に結び付ける
新しいコメ ビジネスの
「壮大な実験」(坂本さん)が
始まっています。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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