西日本豪雨1年②あの日、生き延びた奇跡のネコ

ニュース解説

去年7月7日、ダムの緊急放流で大洪水に見舞われた西予市野村町で、2階のほぼ屋根まで水に浸かった全壊家屋で、奇跡的に生き延びた2匹の兄弟ネコがいます。

向かって左が兄のバロン、右が妹のルイーゼ、共に2歳です。その時、一緒に2階に犬のメイ(メスのチワワ・14歳)もいましたが、残念ながら助かりませんでした。

◆今、仮設住宅で家族と暮らす2匹

西予市には104戸の仮設住宅が建設され、そのうち災害で5人が死亡した野村町の仮設住宅では依然、69世帯125人が生活しています。このうちの一軒で、バロンとルイーゼは生活しています。

飼い主は4人家族の越智昭彦さん(51)一家。兄のバロンは毛が短く、体は大柄ですが、慎重で臆病な性格。

一方の妹、ルイーゼは毛が長く、社交的な”美人”です。

◆やっと”家族”の生活が始まったが・・・

西日本豪雨直後の避難所生活以降、周りに迷惑をかけてはいけないという気持ちから、2匹は妻の裕美さん(43)の実家に預けられていました。

今年4月から、仮設住宅でやっと2匹を加えた”6人家族”の生活が始まりましたが、楽都さん(14)と夢望さん(11)兄弟は2匹が大好き。9か月ぶりに、災害前の2匹と一緒の生活が始まって、楽都さんは「バロンとルイーゼに癒される」と気分一新、勉強にも集中できるようになりました。

夢望さんは、災害後のバロンの様子がちょっと心配です。もともと臆病な性格でしたが、夢望さんのトイレにまでついてくるバロンを「とても怖い思いをしたのでは?」と気遣います。

賑やかさを取り戻した越智さん一家ですが、実は今、再び、2匹と離ればなれになるかもしれない・・・という問題に直面しています。

◆公営住宅は「ペット禁止」が原則

現在の仮設住宅は2年間の期限付きで、来年9月までに西予市は①賃貸の災害公営住宅と②分譲あるいは長期貸し付け型住宅建設用地の2つの選択肢を用意します。ところが、災害公営住宅への入居説明会などで、市から「ペットとの生活は不可」との原則が示されたのです。

妻の裕美さん(43)は、「西日本豪雨で全てを失ったと思ったけど、”いやバロンとルイーゼが助かった”と思い直して頑張った。2匹と離れることは考えられない」と話します。市の調査では、野村町の仮設住宅で生活する69世帯のうち、5世帯がイヌやネコと一緒に住んでいます。

◆オリーブは家族、でもルールは守らないと

越智さん一家の2軒、隣に住む林郁代さん(77)は、夫を亡くした10年前とほぼ同じ時期に、娘夫婦からヨークシャーテリアのオリーブをプレゼントされました。

以来、オリーブは家族。西日本豪雨当日もオリーブと一緒に近くの公民館に避難しました。

しかし、災害公営住宅に移る気持ちをすでに固めていて、「オリーブの世話をしてくれる優しい人が見つかった。公営住宅はペット禁止なのだから、ルールは守らないと・・・」と話します。

◆西日本豪雨で九死に一生を得た2匹

実はバロンとルイーゼは西日本豪雨当日、家族と離ればなれになり、命の危機に瀕しました。

去年7月7日午前6時20分、越智さん一家はダムの緊急放流を受け、バロンとルイーゼをゲージに入れてロックした状態で自宅2階に避難させ、メイも同様にして、家族4人で避難所の中学校体育館に移動しました。

裕美さんは、「もちろん3匹も連れて逃げたかったが、ペットを避難所に連れて行けば、アレルギーなどで迷惑をかける人もいるだろうし、2階なら大丈夫だと思った」と振り返ります。

◆まさかの2階まで水没、「絶望」

ところが、越智さん一家が避難した約1時間30分後に、上流の野村ダムが放流した水量は、安全基準の約6倍に上る毎秒1797トンに達し、町の中心部は水没。裕美さんはSNSで発信された自宅の画像を見るなどし、3匹の生存について「絶望した」と話します。

◆1匹死亡、1匹生存確認、1匹不明・・・

水が引いた午前10時すぎ、夫の昭彦さんが1人で自宅に引き返し、真っ先に向かった2階で、奇跡的な光景を目にします。

2匹のネコを入れたゲージが倒れ、信じられないことにロックが外れていたのです。中は空っぽ。懸命に探すと、窓際のカーテンのそばで、怯えたようにずぶ濡れのルイーゼが座っていました。

もう一方の、ロックのかかったゲージの中ではメイが死んでいるのが見つかりました。バロンは見つかりませんでした。

◆バロンはどこへ?

一旦、避難所にルイーゼを連れて帰り、家族は再会を果たします。しかし、どうしてもバロンが気になる昭彦さん、裕美さん夫婦は午後2時ごろ、再び、バロンを探しに自宅に戻りました。家全体をくまなく探していたところ、バロンのかすかな鳴き声が!

「バロンがいる!」

2人はバロン、バロンと2階を探したところ、クローゼットの中の洋服ケースが積み重なった上でバロンを見つけました。

昭彦さんは「小さく縮こまった姿は、臆病なバロンらしかった」と語ります。

◆西日本豪雨の残した「新たな課題」

西日本豪雨の当日、野村町では3カ所の避難所が開設されましたが、被災者の世話に当たった市関係者は「とにかく混乱していて、ペット専用のスペースを用意する状態ではなかった」と話します。

環境省のガイドラインによると、「これまでの大規模災害の経験から、飼い主とペットが『同行避難』することが合理的である」とされています。そして、「飼い主の日ごろからの心構えや備えに加え、自治体には動物救護対策を講じることが、被災者である飼い主の避難を支援し、生活環境の保全の観点からも重要」と明記さています。

◆進まない「同行避難」への備え

愛媛県開業獣医師会の鹿田良作会長は、「同行避難は、飼い主の日ごろからの準備なども大切だが、自治体の責任で行うべき課題も多い。災害が増えており、飼い主と自治体、獣医師などが連携した対策が急務」と指摘します。

◆「ペットは家族」「命の重さは同じ」

災害時にペットと一緒に避難できる環境整備と、その後の生活でも、”家族の一員”であるペットと共に暮らしたい、という願いに出来る限り応えることが、避けて通れない課題になっています。野村町の仮設住宅で暮らす69分の5の世帯が、このまま”家族みんなで”暮らしたいと希望しています。

69分の5の重み。

取材を通して、この願いの重さを、まず、理解することから始めなければならないと感じました。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(54歳)立教大学卒。1988年南海放送入社後、新居浜支局記者、県政担当記者などを経て、報道部長。現在、執行役員報道局長・解説委員長

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