危険の”個性”と「避難指示」の課題

オピニオン室

11日からの大雨への警戒で
レベル4 『避難指示』が
発令された地区の1つ、
今治市上浦町盛地区(大三島)です。

しまなみ海道の県境、大三島は、
3年前の西日本豪雨の被災地であり、
盛地区は、その被災現場から
車で5分ほどの場所です。

盛地区には
□1回目
15日午前3時から午後2時17分まで

□2回目
18日午前6時20分から
19日午前8時5分まで
255世帯513人を対象に
『避難指示』が発令されました。

「ザーザーどころじゃなかった。
バケツの水をひっくり返した、とは
こういうことかと思った」(盛地区の住民)
ほどの大雨で、
「外を見るのも怖かった」といいます。

盛地区は小高い山から
海に向かて流れる沢(谷)や川沿いに
民家が集まり、広がってゆく
島しょ部の特徴的な集落です。

山に近づくと、かんきつ園が多く、
取材した日は
(避難指示が解除された19日午後)、
川の水量も減っていました。

◆実際に避難した人は1人

避難所となった旧上浦町盛研修センターです。

避難所の近くの住民に聞くと
「実際、ここに避難した人は
そんなにいなかったんじゃないか」
といいます。

「自分も自宅にいた」
(避難所近くの住民)。

市によると、避難した人は
2回の『避難指示』を通じて1人。

今治市に限らず、
県内どの市でも、今回の大雨警戒で
避難対象人数と実際の避難者数とは
大きな隔たりがあります。

◆地域には「危険」に”個性”が・・・

住民によると
盛地区では沢や川の氾濫、土石流、
そして土砂崩れの他にも
集落の上(山の中腹)にある
ため池(農業用貯水池?)の決壊が怖い
といいます。

集落からは見えにくいのですが
確かに複数のため池らしきものがあります。

「なるほど・・・」

ひとくくりに『避難指示』といっても、
危険にはその地域の個性(特徴)があるんだな、
と感じました。

「こうした地域ごとの個性に応じた
『避難指示』が大切なんだ」と学びました。

◆今後の課題、より細やかな『避難指示』へ

今治市防災危機管理課によると
今回の大雨警戒で
盛地区に『避難指示』を発令した理由に
◇ため池の存在は入っていない
ということですが、
◇地区のため池の存在は把握しており、
防災上、必要であれば当然、考慮する
といいます。

今回は
①島しょ部の地質はもろいという特性
(市内では広島側がもろいという)
②土砂災害警戒情報の発表
③地域別の総雨量
(大三島は現在、平年8月の3倍超、
降り始めから311ミリを記録)
④これまでの雨による土壌中の水分量
(土壌雨量指数)
⑤今後の雨量予測などを
総合的に市が分析し、
『避難指示』を発令したと説明します。

一方、避難対象人数と
実際の避難人数との隔たりは
解消すべき課題と受け止めており、
今後、地区内での危険度の違いを
より細やかに把握し、
発令に活かしたいと話します。

つまり、同じ『避難指示』の
対象地区であっても
住民の置かれた個々の状況の
危険度の把握が
今後の課題ということです。

実は、今治市のホームページでは
盛地区の513人全員に”一律”
”避難所に”避難するよう
求めているわけではありません。

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人間の能力には限界があり、
自然災害を完全に排除することは
不可能です。

その事実を謙虚に受け止め、
地域と行政、地域のみんなが
協力しながら
よりよい防災に一歩、一歩、
前進するしかないのではないでしょうか。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(57) 1988年南海放送入社後、新居浜支局、県政担当記者を経て現在、執行役員報道局長・解説委員長。釣りとJAZZ、「資本論」(マルクス)や「21世紀の資本」(ピケティ)など資本主義研究が趣味。

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