ダムと世論~Yahoo!特集取材を終え

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ダム直下の”特殊”な集落「安全神話」崩れ浸水 二重の危機超え命守った訳 【愛媛から伝えたい】(南海放送) - Yahoo!ニュース
2018年7月7日、愛媛県大洲市の肱川町地区は、西日本豪雨で集落全体がすっぽり水没しました。この地区は全国的にも珍しい、ダムが身近に見える場所に位置します。自宅が2階まで浸かった女性は「ここはダムが

を書くため1か月半、ダム直下の町、
大洲市肱川町を取材しました。

取材を通じて、
ダムについての『世論』が
時代と共に変化しているのではないか、
と感じました。

1つの期間を例にとれば、
民主党政権下の政策
「コンクリートから人へ」による
2009年「ダム検証」時代の世論と、
毎年、大規模な豪雨災害が
全国のどこかで起きる現在の世論は
大きく変化したように感じます。

「ダム検証」時代は
”税金の無駄遣い”という言葉を
よく聞きましたが、
今回の取材で
「”税金の無駄遣い”だからダムに反対」
という声は、
私の取材では聞きませんでした。

◆40年がかりの”超”長期の公共事業

Yahoo!特集記事の執筆依頼を受け、
西日本豪雨3年を節目に
全国に共通する”今的な課題”を考えた時、
思い浮かんだのが山鳥坂ダムでした。

「あのダム、どうなっているんだろ?」

1986年(昭和61年)の
実施計画調査から35年、
民主党政権下のダム検証で5年間、
建設が中断されるという時代を経て、
建設が進んでいます。

取材してまず、驚きました。

今年5月、ダムサイト予定地周辺で
新たに大規模な地滑りの危険性が判明し、
ダムサイトの場所の変更も含めて
工期、費用を改めて精査することが
決まっていたからです。

2026年度の完成予定が
さらに見直される可能性があり、
それに伴い総事業費、850億円も
精査中となっています。

つまり40年を超える可能性がある
様々な経緯と
極めて長い歴史を持つ
公共事業となっているのです。

***

しまなみ海道の架橋運動が
大きくなったのが昭和30年代。

その約40年後、1999年に完成していますので
山鳥坂ダムはしまなみ海道に匹敵する
長期的な公共事業といえます。
(しまなみ海道の総事業費は約7,400億円)

40年も経てば
社会や経済環境も大きく変化します。

本四架橋も1973年のオイルショックで
一旦、決まっていた5本の橋の着工が
一時、無期延期されました。

これほど変化の激しい時代にあって
40年という長期に及ぶ事業が
生き残る条件とは何か。

取材を通じて
自分の中で問い続けたテーマでした。

民間企業ではありえない事業だが・・・

850億円の資金を、
投資先の事業からの収入が全くない状態で
40年間に渡って投資し続けるのは
民間企業ではありえない事業です。
(まず資金繰りが続かない)

しかし山鳥坂ダムは公共事業であり、
資金の出どころは公費。
目的は氾濫を繰り返す肱川流域住民の
安全、安心という
お金では測れない、
置き換えの利かない価値にあります。

この点が、民間企業の投資とは
決定的に違います。

本四架橋も、直接の動機は
1955年(昭和30年)の紫雲丸事故に代表される
(児童を含む168人の犠牲者を出した)
お金に置き換えの利かない
”命”を守る目的にありました。

「西日本豪雨までに
山鳥坂ダムが完成していいれば
ここまで大きな被害にはなっていなかった」

大洲市の立場です。

一方、治水効果への疑問や
環境への悪影響などを理由に
建設に反対の意見もあります。

◆技術の進歩、社会の変化への適応など
多くの課題も・・・

しかし40年という時間は
予想を超える技術の進歩を生みます。

紫雲丸事故当時のフェリーの安全性と
現在の安全性とは大きく異なります。

こうした時間による”不確実性”を
コストや工期に読み込むのは
非常に難しい作業です。

しかし、長期にわたる事業では
時間という”リスク”の存在を
謙虚に事前に、あるいはその都度、
住民に説明する必要が
あるのではないでしょうか。

今回、山鳥坂ダムの
ダムサイト建設予定地周辺で
大規模な地滑りの危険性が分かったのも
新たな「高品質ボーリング」によって
これまでは分からなかった
地すべりのリスクがより詳しく
分かるようになったためです。

◆限界も公開、説明し、対応する大切さ

西日本豪雨では
野村ダムと鹿野川ダムの緊急放流による、
河川の氾濫によって犠牲者がでました。

遺族らは、野村ダム管理事務所が
事前の放流を十分に行わず
大量で急激な放流をした操作には
重大な過失があるなどとして
国に対し、損害賠償を求めています。

私は今回の取材で、
被災者から「避難情報がなかった」
(「聞こえなかった」も含む)
と聞きました。

ダムの限界も
十分に事前に住民に公開、説明し、
限界によるリスクを可能な限り、
減らす努力が必要だと感じました。

肱川ダム統合管理事務所は
「ダムからの情報が住民に伝わったか。
行動に移してもらえたか。
その点を検証し、”伝える”から
”伝わる”情報発信に取り組んでいる」と
話します。

◆歴史の流れと『世論』

「40年という長期の事業が
生き残る条件とは何か」。

この疑問は、
国交省のダム関係者や、被災住民、
自治体関係者に問い続け、
実は、取材という”枠”を超えて
議論もしたのですが、
最終的な答えは見つかっていません。

財政状況や政権、経済状況や
国際情勢など様々な”変数”に
左右されることもあるでしょう。

しかし40年という事業の歴史とともに
『世論』という”流れ”が
時には激流のように目に見える形で
時には地下水のように静かに脈々と
流れ続けている・・・
取材を終えて、そう感じています。

その流れにしっかりと、真摯に
目を向けているか。

その流れと共にあるか。

事業が生き残る
条件の1つではないでしょうか。

記者プロフィール
この記事を書いた人
三谷隆司

今治市出身(56歳)立教大学卒。1988年南海放送入社後、新居浜支局記者、県政担当記者などを経て、報道部長。現在、執行役員報道局長・解説委員長

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