温泉街のリノベーション

ニュース解説

長門湯本温泉、ご存知でしょうか。
詩人・金子みすゞのふるさと山口県長門市の山間にある、県内最古の温泉です。2016年末の日ロ首脳会談で、安倍首相がプーチン大統領を招いた、あの高級旅館があるところです。

団体客の減少などで、地方の温泉街の多くは苦戦しているといわれますが、ここもご多分に漏れず、数年前に、まちを代表する大型旅館が倒産するなど、暗い影を落としていました。

プーチンさんが来日する前に、初めて訪れたのですが、倒産した大型旅館の跡がぽっかり更地となり、人通りよりも川のせせらぎのほうが大きく響いている、寂れかけた温泉地という印象でした。

ほどなくして、旅館再生などを手掛ける星野リゾートの進出が決定し、旅館街も含めたまちづくりを、官民一体となってスタートした、というニュースを耳にしました。
あの寂れた(鄙びた)温泉地が、星野リゾートの手によってどのように変身していくのか興味があり、今年のGWに訪ねました。

長門市では、官民連携で温泉街のリノベーションを行うとりくみとして「長門湯本温泉観光まちづくり計画」を策定し、社会実験やイベントなどを行う市民参加型のプロジェクト「長門湯本みらいプロジェクト」がスタートしていました。

まちを楽しむしかけの一つとして、「川床カフェ」がオープンしているというので申し込みました。

わかりますか?温泉街を流れる音信川(おとずれがわ)に作られた川床。

パンとコーヒーを楽しむプランです。
あのプーチンさんが宿泊した高級旅館「大谷山荘」のそば、新緑とせせらぎのど真ん中で、ゆったりした時間を過ごしました。(このプランは4月いっぱいまで。)

長門湯本温泉は、シンボルとなる「恩湯」という公衆浴場の建て替えも同時にスタートしていました。道後温泉本館のように営業をしながらの保存修理工事ではなく、建物をすべて解体し、源泉だけがパイプから流れる更地になっていました。


まち歩きに目玉となる施設も特になく、工事現場の横を歩く温泉街。メインの「恩湯」がないのですから、GWというのに人影も少なく、訪れた観光客はがっかりするだろうな、と思っていました。

そのイメージが一転したのが、旅館においてあったこのパンフレット。

これからどのような温泉街になるのかといった、具体的なスケッチとスケジュールが描かれたまち歩きのパンフレットでした。

パンフレットを持って、もう一度工事中の温泉街を歩きました。「〇〇完成予定」と書かれているだけなので、当然、まだなにもありません。しかし、この地図を眺めていると、いま工事中のあの場所も、骨組みだけのあの旅館も、このようになっていくんだなあと、妄想している自分に気が付きます。まるで、育っていく街を、見守っているような感覚でしょうか。

そのしかけは、長門湯本みらいプロジェクトのサイトにもありました。
「恩湯」の再建に、広く寄付を募るという取り組みです。ふるさと納税もそうですが、寄付などをして「かかわり」をもつと、あまり縁がなかった地域でも、愛着を感じたり、もっと知りたくなったりしますよね。

「工事現場しかない」という、観光地ではありえないほどのマイナス要因を、「想像力」という体験で楽しませる新しい手法に、感心したり妄想したり。

ちなみに長門湯本温泉、正直、アクセスはあまりよくありません。
もっとも近い山口宇部空港からは、車で1時間以上かかるし、最寄りの新幹線の駅からも1時間近くかかります。松山からだと、フェリーで山口に上陸し、そこから山陽道・中国道を経てさらに国道を日本海に向かっていく、という道のりです。

都会からのアクセスの悪さを補って余りある魅力がある、との勝算があるからこそ、星野リゾートも進出を決めたんだろうなと、期待が高まります。(建設中の旅館)

よくある鄙びた温泉街を、どのようにして「特別なもの」にしていくのか、その手法は、とても興味深く感じます。

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この記事を書いた人
永野彰子

入社32年目、下り坂をゆっくり楽しんで歩いています。
ラジオ「ニュースな時間」で出会った人たちの、こころに残ることばを中心にお伝えできればと思います。

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