■「火の鳥」ラッピングアート内部に潜入
愛媛最大の観光名所、松山市の道後温泉本館は、2019年1月15日から2024年末の完成を目指し、部分営業を続けながらの保存修理工事が行われています。
1894年(明治27年)に改築された道後温泉本館は、公衆浴場として全国で初めて、国の重要文化財に指定されました。
この重要文化財は、改築から120年余りが経過しているため、建物の耐震性の観点から保存修理工事が必要となりました。
明治時代の建築物を保存・修理するためには、当時の技法などを忠実に再現しなければならず、多くの職人による熟練の技が工事に活かされています。
この保存修理工事は、本館の建物を覆う「火の鳥」ラッピングアートの内側で行われているため、普段、一般市民や観光客などはその進捗状況を見ることができません。
しかし、道後温泉を管理する松山市は、貴重な工事の様子を市民らに見てもらおうと、定期的に予約制の工事見学会を開いています。
■ピカピカに輝く銅板屋根
この日の見学会で公開されたのは、日本で唯一の皇室専用浴室を備えている「又新殿・霊の湯棟」。
目の前にあったのは、茶色く光り輝く“銅板”の屋根で、銅板1枚の大きさは、長さ31cm×幅12cm。
今回の保存修理工事で、葺き替える“銅板”は、建物全体で、なんと8000枚以上にのぼります。
あれ?でも、本館の“銅板”屋根って、緑色だったような!?と思われる方も多いはず。
※1969年(昭和44年)当時の道後温泉本館
実は、長い年月とともにピカピカに輝く銅板が“緑青”と呼ばれる錆で変色し、私たちが良く知る屋根の色になったのです。
この真新しい“銅板”屋根がこの先、どのような色合いに変化していくのか楽しみの一つです。
■伝統をつなぐ
本館南棟では、土壁を塗り直す左官作業が行われていました。
作業にあたるのは、2019年の技能五輪で日本一に輝いた左官女子、緒方静流さん。
一般の住宅建築などでは、土壁は、下地の上に幾層にも土を塗り重ね、最後に上塗り材の“しっくい”を塗って仕上げます。
しかし、本館の土壁をはがしていくと、ある事実が判明しました。
一般の住宅建築とは異なる“城郭建築”の技法が用いられていたのです。
今回の保存修理工事では、この技法がそのまま用られていて、緒方さんらは、昔ながらの“しっくい”も再現することにしました。
再現するのは、左官女子・緒方さんの師匠で、大洲城の天守や県武道館といった愛媛の名だたる“壁”を手掛けてきた「現代の名工」松岡弘志さんです。
まずは、“しっくい”の強度を増すために“すさ”と呼ばれる麻の繊維を丹念にほぐします。
そして、“しっくい”の繋ぎとなる“糊”を作ります。
続いて、“銀杏草”という、真っ黒な海藻を熱湯でグツグツと煮込んで漉していきます。
こうして出来上がった“糊”の中にさきほどほぐした“すさ”や、“しっくい”の元となる消石灰と貝殻の灰を投入してかき混ぜると、昔ながらの“しっくい”の完成です。
「現代の名工」松岡さんにとって今回の保存修理工事は、緒方さんなど若い職人に伝統的な技法を伝承する絶好の機会となったようです。
■次のステップへ…「火の鳥」飛び立つ!?
約6年間にわたる本館の保存修理工事は、建物東側で行う“前期工事”と、建物西側で行う“後期工事”に分かれています。
現在は、“前期工事”の最終段階に入っていて、このほど松山市から次のステップにあたる“後期工事”に関する具体的なスケジュールが示されました。
そのスケジュールでは、“後期工事”の準備のため、5月11日から1週間かけて、本館を覆っている「火の鳥」のラッピングアートを取り外します。
そして、7月5日から14日まで、“全館を休館”します。
休館が明け、7月15日には、入浴客の入り口を現在の北側から東側の「又新殿・霊の湯棟」に移し、営業を再開した上で、本格的に“後期工事”がスタートします。
さらに9月から年末にかけて、ラッピングアートの骨組が現在の東側から西側に移動し、「火の鳥」ラッピングアートのデザインも一新されます。
■コロナ終息に向けて
松山市によると、道後温泉本館の去年1年間の入浴客数は、新型コロナの感染拡大による臨時休館などの影響でおよそ23万9000人と前年の半数以下に減少しているということです。
東京都など10都府県を対象にした国の「緊急事態宣言」や愛媛県独自の「特別警戒期間」が継続されるなど、新型コロナウイルスは、依然、終息の見通しが立たず、ここ“道後”だけでなく、全国の観光地は、軒並み窮地に立たされています。
一方、日本国内では、ワクチン接種がスタートするなど明るい兆しもあり、経済活性化と感染予防対策の両立が今後も大きな課題となります。
■最後に
私ごとで恐縮ですが、この度の人事異動に伴い、解説委員を卒業することになりました。
丸2年、全98回の拙い解説記事をご愛読賜りましたこと、心から感謝申し上げます。
新天地では、記者や解説委員としての経験を活かし、地域と南海放送を繋ぐことで、愛媛県を盛り上げていくような仕事をしたいと思います。
また、どこかでお会いできた際には、何卒よろしくお願いいたします。