第85回「2020年宇宙の旅」

オピニオン室

■愛媛の“干物”が宇宙へ飛び立つ!
私が1年ほど前に掲載した解説記事「第33回 愛媛の“干物”が宇宙へI?(2019年10月24日付)」の内容が実現しました。
そうです、愛媛の“干物”が宇宙へ飛び立つことになったんです。

このほど、JAXA(宇宙航空研究開発機構)から※“宇宙日本食”として認証されたのが、「スペースまるとっとアジ(燻製しお味)」です。
干物が“宇宙日本食”に採用されたのは、日本国内初の快挙だということです。

この「スペースまるとっとアジ」ですが、なんと、2020年11月15日に宇宙へ出発する野口聡一宇宙飛行士に提供されることが決まっています。
※宇宙日本食:国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する日本人宇宙飛行士に日本食の味を楽しんでもらいストレス緩和や業務効率の維持・向上などに繋げるためJAXAが認証するもの。

■5年の歳月をかけて

この宇宙食を開発したのは、東温市の水産加工会社「キシモト」です。
これまでに「キシモト」は、愛媛県と共同研究の末、骨まで食べられる干物「まるとっと」を開発・一般販売しています。

商品を開発した岸本賢治専務は、「研究のため1年間に約1万尾の魚の干物を食べた」とその苦労を振り返ります。

当初は、魚の骨を取り除く方法を考えていましたが、なかなか思うような成果が得られず、逆転の発想で、骨まで食べられる干物の開発を目指したそうです。
そして、試行錯誤の結果、「まるとっと」を完成させました。

この「まるとっと」をベースに約5年の歳月をかけて新たに開発されたのが、宇宙食「スペースまるとっとアジ(燻製しお味)」です。

■宇宙人と一緒に食べるのが夢…
岸本専務が宇宙食開発を目指したきっかけは、地元高校生との会話でした。

ある日、地元高校生が学校活動の一環で「キシモト」に取材にやってきました。
その時、岸本専務は高校生から夢について質問されました。
そこで、岸本専務は、取材してくれた高校生たちと同じくらいの15歳のときにロケットが初めて飛んだことを思い出し、「もしも宇宙人が存在しているのなら地球人と宇宙人が一緒に“まるとっと”を食べている風景を見るのが夢」と答えたそうです。
このやりとりがきっかけで、JAXAと繋がりができ、宇宙食「スペースまるとっと(燻製しお味)」が完成したのです。

■一般販売もスタート
「まるとっと」は、骨まで全て食べられるため、残さ(生ゴミ)が発生しない上、宇宙空間で不足しがちなカルシウムも通常アジの刺身と比べて40倍ほど含まれていることが大きな特徴だということです。

この「まるとっと」をベースに開発された「スペースまるとっとアジ(燻製しお味)」は、塩分が50%カットされているほか、外国人宇宙飛行士にも受け入れられるように燻製風味に仕上げられています。
さらに賞味期限は常温で2年6か月と長期保存が可能となっていて、これらの特徴が宇宙食に適していると評価されました。
この「スペースまるとっとアジ(燻製しお味)」、宇宙食ではありますが、10月30日からキシモトのオンラインショップで取り扱いが行われていて、県内のスーパーでも販売が予定されています。(1個:税込972円)

■防災食としての活用も
 
10月28日、岸本専務らは、愛媛県庁を表敬訪問し、「スペースまるとっとアジ(燻製しお味)」の宇宙食採用を田中副知事に報告しました。

その際、田中副知事は、賞味期限が2年6か月と長期保存できることや、生ゴミを出さないこと、さらに栄養価に優れていることなどから大規模災害時の“防災保存食”としての可能性に言及していて、「まるとっと」の宇宙食以外での新たな活用方法としても期待されています。

愛媛の企業が実現した壮大な夢。

「人が喜んでくれるものを作ることが何にも変えられない価値がある」
そう話してくれた岸本専務の笑顔が輝いていました。

※次回記事更新は、11月19日(木)の予定です。

記者プロフィール
この記事を書いた人
御手洗充雄

1976年松山市生まれ。
1999年南海放送入社、2008年~報道部(記者として愛媛県警記者クラブ、松山市政記者クラブ、番町クラブなどを歴任し、現在はデスクとして活動中)
約10年の行政記者経験を基に県政・市政ニュースなどを分かりやすくお伝えます。

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