第61回「松山の病院で新型コロナクラスター発生 医療現場の苦悩」

オピニオン室

■愛媛県内初の大規模クラスター

5月13日、愛媛県は、松山市の牧病院に勤務する男性介護職員が新型コロナウイルスに感染したと発表しました。
その数時間後、この男性介護職員の同居家族1人と男性の同僚の女性看護職員の計2人についても感染が確認されたと発表がありました。
牧病院によりますと、病院は6階建てで、1階は、「一般外来」(心療内科、精神科、内科)、2階~5階は「入院病棟」、6階は、「医局・スタッフルーム」になっているということです。
感染が確認された2人の職員が勤務していたのは、2階病棟で、主に高齢者が入院していました。

医療機関での感染とあって、愛媛県と松山市は、感染者の濃厚接触者などの検査を急ぎました。
そして、翌14日には、2階病棟の職員6人と入院患者10人と退院患者1人の計17人の感染が確認されました。
その後、集団感染が発生した2階病棟とは別の3階病棟で勤務する男性看護職員と女性介護職員、それに3階と5階の入院患者の感染が相次いで確認されました。
愛媛県は、牧病院の全ての職員と患者、感染者の濃厚接触者などにPCR検査を行った結果、牧病院関連の感染者は、27人にのぼっています。(5/21発表)
これで病院内の関係者への検査が全て終了し、検査を終えていない濃厚接触者についても自宅待機を要請していることなどから、中村知事は、「病院外への感染の連鎖を断ち切るための囲い込みは完了した」としています。
一方、感染ルートが分かっていないため感染源の特定を急いでいます。

【感染者内訳】
病院内:24人(職員・患者)
病院外: 3人(感染職員の家族/濃厚接触者)

【牧病院関連PCR検査結果(5/21発表)】
職員:全138人(陽性10人・陰性128人)
患者:全163人(陽性14人・陰性149人)
濃厚接触者等:全81人(陽性3人・陰性70人・検査予定8人)

■医療機関の苦悩
5月14日。
院内での大規模クラスター発生を受け、牧病院の牧徳彦院長が記者会見を開きました。

冒頭、牧院長は、「集団発生という事態を招き申し訳なく関係者の皆様に多大なるご心配ご迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げます」と陳謝しました。

その上で、「松山市内で新型コロナウイルスの感染が確認された今年3から院内に臨時感染予防対策委員会を立ち上げ、感染対策に努めるなど、考えうる限りの最善の対策をしてきたつもりだが、クラスターが発生してしまった。原因究明を急ぎたい」などと、苦悩をにじませました。
牧病院では、具体的な感染対策を4つのフェーズ(段階)に分類し、マニュアルを作成していました。

フェーズ①(流行なし)
フェーズ②(県内発生)
フェーズ③(緊急事態宣言発令)
フェーズ④(院内発生)

牧病院の「新型コロナ対策フェーズ別院内感染対策」では、面会や入院の受け入れ、室内環境(換気)、退院、消毒、外来診療など、全18項目について、4つのフェーズ別に対策を取りまとめています。
牧病院は、精神科を有する医療機関のため、病棟にドアや鍵が多く、窓も全開にできないなどといった施設上の特性があります。
しかし、病院では、鍵の消毒の徹底や定期的な換気など、独自の対策を実践していたということです。
ただ、それでも今回の感染を防げなかったと、牧院長は、苦渋の表情を浮べました。

また、牧病院では、集団感染が発生した2階病棟に勤務していた職員約20人について、検査では陰性だったものの、念のため自宅待機としています。
このため、残った介護・看護職員は、ギリギリの状態での勤務が続いていて、大きな負担がかかっていると言います。
その上で、牧院長は「いま残っている職員が燃え尽きないように。(患者を)支えている側が崩れないようにする方式を考えたい」と、職員のメンタル面も含めフォローしていく考えを強調しました。
一方、病院に対して、「感染した職員の子どもはどこの小学校に通っているのか?」などといった問い合わせもあるということで、差別や風評被害も懸念されています。

■「敵は人ではなく、ウイルス」
多くの患者と接するため、新型コロナウイルスへの感染リスクが高い医療機関。
もちろん医療機関に限らず、新型コロナは、日常生活を送っている誰にでも感染する可能性があります。

愛媛県の中村知事は、改めて、「敵はウイルスで、人ではない。人はアクシデントに見舞われた犠牲者である。正しい情報の下にしっかりとそれぞれが考え、関係者への誹謗・抽象は絶対にやめてほしい」と強く訴えました。
その上で、クラスターの発生については、「愛媛県では、徹底して県民に呼び掛けをして、独自で様々な対策を打ち、新事例は、20日間0件で、封じ込めに成功していたが、一夜にしてこういうことが起きてしまい『これがコロナなんだな』と痛感した」と、対策の難しさを語りました。
そして、改めて、県民に対し、「うつらないよう自己防衛」、「うつさないよう周りに配慮」、「県外の外出自粛と3密回避」の感染拡大回避行動の徹底を強く呼びかけました。

医療機関には、様々な患者が訪れるため、医療従事者は、常に新型コロナウイルスなどの感染リスクを背負っています。
そして、計り知れない緊張感の中で、医療体制を維持するため、また、患者のために医療活動にまい進されてらっしゃいます。
これから私たちは、少なくともワクチンが開発されるまでの間は、ウイルスと向き合っていかざるを得ません。
その間には、今回のような院内感染が発生する事態も考えられます。
しかし、そうした場合でも、感染者をいたわり、医療従事者に感謝する気持ちを持ち続けることも大切なのではないでしょうか。

※次回記事更新は、5月28日(木)を予定しています。

記者プロフィール
この記事を書いた人
御手洗充雄

1976年松山市生まれ。
1999年南海放送入社、2008年~報道部(記者として愛媛県警記者クラブ、松山市政記者クラブ、番町クラブなどを歴任し、現在はデスクとして活動中)
約10年の行政記者経験を基に県政・市政ニュースなどを分かりやすくお伝えます。

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