第58回「新型コロナ 道後から灯りが消えた日」

オピニオン室

■愛媛も「緊急事態宣言」対象地域に

2020年4月16日。
安倍首相は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「緊急事態宣言」の対象地域を愛媛県を含む全ての都道府県に拡大しました。
東京都や大阪府など7都府県を対象にした4月7日の発令からわずか10日足らずで、一気に対象地域が全国に広がりました。
この宣言の有効期間は、5月6日までで、先述した7都府県と、感染者が急増する北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県、京都府の6道府県の計13都道府県が特に重点的な対策を進める「特定都道府県」に位置付けられています。
感染拡大に歯止めをかけて、医療崩壊を防ぐには、間もなく迎えるゴールデンウィーク期間中を含めた人の移動を全国一斉に抑える必要があると判断したためです。

■1946年「昭和南海地震」以来の長期休館

「緊急事態宣言」の全国拡大は、愛媛県内にも大きな影響を与えています。
人の移動を制限することによって最も打撃を受けるであろう産業が観光業です。
それは、観光都市・松山市にも暗い影を落としています。
宣言から一夜明けた4月17日。
松山市は、市が管理運営する松山市最大の観光シンボル・道後温泉本館の臨時休館を決めました。
野志市長は、「地元(道後)の方と話をして感染を防止するんだ早期終息をさせるんだという思いで休館を決定しました」と、苦渋の決断に至った思いを語りました。

道後温泉本館は、聖徳太子も入浴し、3000年の歴史を持つ日本最古の温泉と言い伝えられるなど、全国的にも有名で、国の重要文化財に指定されています。

この「道後温泉本館」と、2017年12月にオープンしたばかりの「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)」が4月18日(土)から5月6日(水・祝)まで臨時休館することになったのです。

※防災上の理由から本館と飛鳥乃湯泉の照明は点灯されています。
松山市によると「道後温泉本館」が長期にわたり休館するのは、1946年の「昭和南海地震」で、約3か月間、温泉が止まってしまった時以来ということです。
さらに、伊予鉄道後温泉駅前の「放生園」の足湯や坊っちゃんカラクリ時計。

冠山に整備されたばかりの「空の散歩道」の足湯なども使用休止となってしまいました。

■道後のホテル・旅館はさらに苦境に

2020年3月、道後温泉旅館協同組合から衝撃的な数字が報告されました。
2020年1月24日から3月9日まで道後のホテルや旅館で、宿泊予約のキャンセル数が5万3000人を超え、3月1日から5月31日までの宿泊予約が例年の20万人から6万5000人に激減しているというのです。
新型コロナウイルスは依然として感染拡大を続けていて、終息する気配すら見せておらず、状況はさらに悪化しています。

■衝撃の光景が
緊急事態宣言が全国に拡大され、「道後温泉本館」が臨時休館して初めての週末。
4月18日(土)午後7時頃に道後のまちを取材しました。
そこには、これまで目にしたことのない衝撃の光景がありました。

通常、春の行楽シーズンでもあるこの時期は、週末の夜ともなれば「道後温泉本館」には、入館を待つ人々の長い行列が出来ていて、道後商店街は、多くの観光客で埋め尽くされています。
しかし、この日は、本館周辺に人影はなく、商店街もシャッターを締め切っている店舗が大半を占め、観光客と見られるカップルや学生を数人、目にしただけでした。

また、道後のホテルや旅館の客室の照明は、まばら。

「放生園」や「空の散歩道」の足湯には、お湯すら無く、初めて目にする光景にショックを受けました。

道後温泉旅館組合に加盟するホテルや旅館では、臨時休業する施設が増えていますが、この厳しい時期を乗り越えて、また、いつもの賑わいが道後のまちに戻ってくることを願っています。

■愛媛県の緊急事態措置
緊急事態宣言は各都道府県知事に権限が委譲されます。
このため、愛媛県では、中村知事が新型インフルエンザ等特別措置法に基づき緊急事態措置を実施することになります。

以下、愛媛県の主な対応です。(4月17日発表)
○措置期間:5月6日まで。
○対象区域:愛媛県下全域。
○措置内容
①外出自粛の協力要請(法第45条第1項)
・不要不急の外出自粛
(医療機関への通院、食料、医薬品など生活必需品の買い出し、必要な職場への出勤、屋外での運動や散歩など生活維持のために必要なものは対象外)
・大型連休期間における都道府県をまたいだ不要不急の移動自粛
・繁華街の接客を伴う飲食店への利用自粛など
②イベント等の開催自粛要請(法第24条第9項)
・全国的かつ大規模なイベントの中止または延期の検討
③県立学校の休校(法に基づかない)
(4月20日~5月6日)
④県有施設の閉館(法に基づかない)

一方で、中村知事は、「今回、本県が緊急事態宣言の対象区域に追加されたことは、愛媛県の感染者が急速に増加したり、感染経路が特定できないものが急速に増えたということが原因ではない」とした上で、3点の要請「①うつらないよう自己防衛、②うつさないよう周りに配慮、③県外や不要不急の外出自粛」の徹底を改めて呼びかけました。

■思いやりの気持ちで…
新型コロナウイルスを巡っては、感染者があたかも悪者のように扱われ、ネット上を中心に誹謗中傷されています。
中村知事も事あるごとに「我々の共通の敵、戦うべき相手は新型コロナウイルス」と訴えています。
また、「感染していても気づかず、知らないうちに誰かにうつしているかもしれない」とその特性を指摘しています。
このままの風潮では、感染者が誹謗中傷を恐れるあまり感染を隠し、市中感染が拡大する可能性も否定できません。
感染者はいわば被害者です。いつ誰が感染してしまうか分かりません。
だからこそ、感染者をいたわる気持ちが、新型コロナウイルスに立ち向かうために最も大切なのではないでしょうか。
ひょっとしたら自分が感染しているかもしれない。
そんな思いで、相手にうつさないような思いやりのある行動が感染拡大を防ぐ一歩になるのかもしれません。
苦しい闘病を終え、日常生活に戻ってきた感染者に「おかえりなさい」とあたたかい声をかけられるように。

※次回の記事更新は、4月30日(木)の予定です。

記者プロフィール
この記事を書いた人
御手洗充雄

1976年松山市生まれ。
1999年南海放送入社、2008年~報道部(記者として愛媛県警記者クラブ、松山市政記者クラブ、番町クラブなどを歴任し、現在はデスクとして活動中)
約10年の行政記者経験を基に県政・市政ニュースなどを分かりやすくお伝えます。

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