■運転差し止めの仮処分決定
伊方原発3号機の運転差し止めを求める訴訟については、現在、『松山地裁』、『広島地裁』、『大分地裁』、『山口地裁岩国支部』の4つの裁判所で、通常の裁判手続きによる民事裁判(本訴)があわせて4件、行われています。
これに加え、上記4つの裁判所では、あわせて5件の仮処分の申し立ても行われています。
(『松山地裁』、『広島地裁①回目』、『広島地裁②回目』の仮処分は、四国電力の勝訴が確定)
このうち、1月17日、山口県の離島の住民3人が『山口地裁岩国支部』に申し立てていた仮処分の抗告審(地裁は四国電力の勝訴)において、『広島高等裁判所』が、伊方原発3号機の運転差し止めを命じる決定を出したのです。(『大分地裁』の仮処分は原告側が『福岡高裁』に抗告中)
■【活断層評価】と【火山噴火規模】
今回の『広島高裁』運差し止め決定の主なポイントは、①【地震に対する安全性】と、②【火山の影響による危険性】の2点です。
①については、「四国電力が、海上音波探査を根拠に佐田岬半島沿岸に活断層はないと主張している点について、この海上音波探査では不十分で発電所のすぐ近くに活断層が存在する可能性は否定できない」などと指摘し、「原子力規制委員会の判断にはその過程に過誤ないし欠落があったといわざるを得ない」などとしています。
また、②については、「阿蘇山で最大規模の噴火が起きた際に噴出する火山灰などの量が、四国電力の想定では過小であり、この想定を前提とした原子力規制委員会の判断も不合理である」などとしていて、地震と火山の両面で原告側の住民の主張をくみ取っています。
■安全確保のための厳しい要求
伊方原発3号機を巡る【司法判断】による運転差し止めは、2017年12月の『広島高裁』決定(2018年9月に決定取り消し)に続き、これが2例目となります。
2017年に『広島高裁』が運転差し止めを命じた理由は、伊方原発からおよそ130キロ離れた熊本県にある阿蘇山の危険性でした。「9万年前の噴火による火砕流が伊方原発に到達した可能性が十分小さいとは言えず、原発の立地は不適切」などとしていました。
今回の決定では、阿蘇山噴火の危険性に加え、地震調査に対する四国電力の想定や原子力規制員会の判断を不合理とした点が加わるなど、前回の差し止めの時よりも、さらに踏み込みんだ内容で、原発の安全確保のための厳しい要求を四国電力に突き付けた形となりました。
■運転停止が長期間にわたる可能性も
2019年12月から定期検査に入り、運転を停止している伊方原発3号機は、当初の計画では、2020年3月下旬に送電を再開し、4月末には、定期検査を終えて通常運転を再開する予定でした。
しかし、今回の運転差し止めの決定によって、現在、『山口地裁岩国支部』で係争中の運転差し止めをめぐる裁判(本訴)で、判決が出されるまで運転できないことにとなっています。
この裁判は、2017年12月に提訴され、第5回まで口頭弁論が行われています。
次回、第6回口頭弁論は、2020年2月28日に予定されていますが、判決の時期については、見通しが立っていません。
さらに、2021年3月22日には、3号機のテロ対策施設の完成期限を迎えます。
この期限までにテロ対策施設が完成しない場合、再稼働が認めらないことになっていますが、四国電力では、完成が1年程度遅れる見通しを示していて、3号機の運転停止がこのまま長期化する可能性もあります。
■電力の安定供給と電気料金は
一方、電力の供給面は、どうなるのでしょうか。
伊方原発3号機は、四国では唯一の原発で、出力は89万キロワットで、四国電力の出力全体の11%をカバーしています。
今回の仮処分によって伊方原発3号機が稼働できなくなるため、今後は、その不足分を火力発電で補うことになります。
このため、四国電力は、火力発電所をフル稼働させなければならず、トラブルが発生するリスクも想定されます。
また、経営面から見ても火力発電に使用する化石燃料などの燃料費が増加するため、収支は、月に35億円程度悪化する見通しです。
このため、原発の運転停止が長期化した場合、厳しい経営を余儀なくされることになり、電気料金への影響も懸念されます。
■国が責任を持って
「世界最高水準の安全」を組織理念に掲げる原子力規制委員会の判断を不合理と断じられ、【司法判断】により再び運転を差し止められた伊方原発3号機。
現在、行われている定期検査では、核分裂反応を抑える制御棒を誤って引き抜くなど、トラブルが相次いでいて、原発の安全性に対する県民の視線が厳しさを増しています。
一方、『広島高裁』では、2017年12月の運転差し止め命令のあと、裁判長が変わると、2018年9月には、運転差し止め処分が取り消されるなど【司法判断】も揺れ動いています。
このように原子力発電には、様々な課題が残っていて、今後、原発だけに頼らない新たなエネルギーや蓄電技術の開発などに国が責任を持って取組み、誰もが納得できるエネルギー政策ビジョンを示す必要があるのではないでしょうか。
※次回の記事更新は、1月30日(木)を予定しています。