第23回「女子大学生はなぜ誤認逮捕されたのか」

オピニオン室

■ある日 突然犯人に…

2019年7月8日。愛媛県内の女子大学生が窃盗の疑いで松山東警察署に逮捕されました。
2019年1月9日午前2時すぎ、松山市清水町の路上で、タクシーの助手席から降りる際に売上げ金などおよそ5万5000円が入ったセカンドバッグを盗んだという容疑でした。

■一貫して無実訴えるも…
事件当時、タクシーの車内には、助手席に女、後部座席に女の知人3人の合わせて4人が乗っていました。そして、料金を支払って車を降りる際に助手席の女が現金が入ったセカンドバックを盗む映像がドライブレコーダーに映っていました。また、警察は、タクシーを降りた付近の防犯カメラの映像も調べて4人が近くのアパートに入るのを確認しました。

このドライブレコーダーに映っていた犯人の顔と、犯人と同じアパートに住む女子大学生がよく似ているとして、警察は、5月27日と6月4日の2回にわたって女子大学生を任意で取り調べました。
これに対し、女性大学生は、「その日タクシーに乗っていない」などと一貫して無実を訴えていましたが、容疑を否認していることなどから証拠隠滅の恐れがあるとして7月8日に窃盗の疑いで逮捕されたのです。

■誤認逮捕が発覚
裁判所が勾留請求を認めなかったため、女子大生は逮捕2日後の7月10日に釈放されます。
逮捕から実におよそ52時間にわたり、身柄を拘束され続けたことになります。
松山東警察署は、女子大学生を釈放したあとも捜査を続けていましたが、7月16日になって女子大学生と同じアパートに住む女が犯行を認めたため、誤認逮捕が発覚しました。
そして、7月26日、松山区検察庁は、女子大学生を嫌疑なしの不起訴処分としました。

■誤認逮捕の原因は「思い込み」と不十分な裏付け捜査
誤認逮捕の原因について、警察は、「ドライブレコーダーの映像がよく似ていたため犯人と思いこんだ」などとしています。捜査員は、同じアパートに住む犯行を認めた女の顔も確認していましたが、その女が映像と似ているとは思わず、女子大生が似ていると思ったそうです。
さらに、タクシーの後部座席に乗っていた3人についても特定を怠っていました。
3人は誤認逮捕された女子大学生と面識はなく、もし3人から事情を聞いていれば女子大学生は事件と無関係であったと分かった可能性があります。

■女子大学生がつづった手記

8月1日、誤認逮捕された女子大学生が思いをつづった手記を弁護士を通じて発表しました。
その手記には、取り調べの様子が次のように記されていました。

【女子大学生】「本当の犯人を捕まえてください」
【取調官】「犯人なら目の前にいるけど」「やってないことを説明できないよね?」「タクシーに乗った記憶ないの?二重人格?」「罪と向き合え」

女子大学生は、一番初めの取り調べから一貫して容疑を否認していました。
それにもかかわらず、捜査に関わった刑事全員が女子大学生の話に耳を傾けることは無かったと記されています。
さらに、自白を強要するかのような言葉を執拗に言われたとしています。

【取調官】「就職も決まってるなら大事にしたくないよね?」「君が認めたら終わる話」「ごめんなさいをすれば済む話」「認めないと終わらないよ」

手記には、「本当に悔しく、ただひたすら真犯人が出てくることを祈るしかなかった。逮捕直後、もし勾留されたら取り調べに耐え切れずにやっていないことを認めてしまうかもしれないという不安な気持ちがあったのも事実。手錠をかけられたときのショックは忘れたいのに忘れることができず、今でも辛い」などと、女性大学生の胸の内が生々しくつづられていました。

一方、警察は、この手記の発表を受け「違法な取り調べという認識はない」としています。

■愛媛県警察本部による謝罪

誤認逮捕発覚から半月以上が経過した8月6日。
愛媛県警察本部の松下整本部長が「今回の事件では、事件と全く無関係の女性を逮捕してしまったわけであり当事者の女性に誠に申し訳なく心よりお詫び申し上げます」と、誤認逮捕について、初めて公の場(愛媛県議会スポーツ文教警察委員会)で謝罪しました。
この委員会では、委員から女子大生の手記にもあった自白の強要について質問がありましたが、県警の担当者は、「捜査部門と別に独立した監督部門においても本件取り調べに関する調査を行っているところで、しっかりと事実確認をしたい」と、答えるにとどまっています。
今回の誤認逮捕について、県議会からは「もっと早く説明して欲しかった」という声も上がっています。

■真相解明と再発防止を

誤認逮捕を受け、警察に関する条例、予算等の権限を持つ愛媛県の中村知事は、「人生すらも狂わせかねない尊厳を大きく傷つける重大な人権侵害。誤認逮捕された女性に対する誠意ある対応を取り続けてもらいたい」とした上で、「誤認逮捕に至った原因を捜査の在り方も含めて、徹底的に調査すべき」と、真相解明と再発防止を県警本部に求めました。
また、取り調べにおける自白の強要の有無については、「言葉を発した側と受け取めた側の思いが変わってしまうケースもあるので、取り調べでどういう言葉が飛び交ったのかも含めて徹底的に調査し、みんなが考えられるような材料を提供する必要がある」と述べ、調査結果を県議会で報告する必要があるとの認識を示しました。

何の罪もない1人の女子大学生がある日、突然、逮捕された今回の事件。
この女子大学生のような思いをする被害者が二度と出ないよう、徹底した調査・検証と具体的な再発防止策の公表が求められます。

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なお、来週木曜日(15日)の私の『ニュースの深層』は、お盆休みを頂くため、お休みさせて頂きます。

記者プロフィール
この記事を書いた人
御手洗充雄

1976年松山市生まれ。
1999年南海放送入社、2008年~報道部(記者として愛媛県警記者クラブ、松山市政記者クラブ、番町クラブなどを歴任し、現在はデスクとして活動中)
約10年の行政記者経験を基に県政・市政ニュースなどを分かりやすくお伝えます。

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