去年、足りなかったところですか…

オピニオン室

「足りないものは何もありません。
今のままでいいと思っています!」

少しだけ考え直し
「…唯一、足りなかったのは
“背骨の太さ”、
それが勝点7だけ足りなかったですね」
と付け加えた。

昨年5位だったFC今治は勝点60。
2位で昇格した藤枝MYFCは勝点67。
その差は7だった。

今季、新監督は
昨年コーチを務めていた髙木 理己氏(44)。
現役時代は高校サッカーの名門、市立船橋高校で日本一を経験。
2019年からJ3ガイナーレ鳥取で監督をしていたが
2021年5月途中解任。
2015年にFC今治がリスタートして9年目で
8代目の監督だ。

2023シーズン、全60クラブのうち
19チームが新監督を迎えた。
最も多いのはJ3で半分以上の11チームが
新しい指揮官を迎えている。

発展途上のチームが多いJ3リーグにおいて
前年のカラーを刷新するクラブは多い。
が、FC今治はそれをしなかった。
いや、しないのではない。
確固たる哲学(=背骨)があるから
してはいけない、する必要がないのだ。

「このクラブは初めて日本をワールドカップに導いた
岡田武史さんによって再出発した。
0から1にしたのは凄い価値がある事。
そこからドイツ、スペインに勝つなんて
誰も思いもしなかった。
それはあの時、ジョホールバルで岡田さんが戦ったことと
繋がってるんです。
その岡田さんのメソッド、フィロソフィに基づいた
プログレッション(進歩)、プロアクティブ(行動)に
沿ってチーム作りをやる。
それを具現化する為に私はここにいます!」

初日練習後の囲み取材はたっぷり30分。
新監督の言葉は今日も溶岩の熱を帯びていた。
今日はその熱がサッカーだけでなく
時にヒット曲の話にも
時に戦国武将の話にも広がっていった。

「“ハビット(SEKAI NO OWARI)”って曲の歌詞のように
人生や人間を整理区別するんじゃなく
混とんとしてる中に答えがあると思うんです!
そこに手を突っ込んで答えを出す。
岡田さんを見てるとそれがわかるんです」

「里山スタジアム初年度に
もう一度、大海原に攻めに出る!
毛利にも織田にも媚びなかった
村上水軍のように」


彼は戦う人間をより奮い立たせる言葉を
言語化できる希代のモチベーターだ。

「我々の岡田メソッドは
本が出てるくらいだから当然皆知ってますよ。
それでも喰う!引き千切って喰らいつく!
他チームより我々は上に行く。
昨年、混とんの中で掴んだものが我々にはある。
隠したりしません。判ってても止められないくらいで
それで(J2へ)上がらないと今治らしくない。
唯一無二ですから!」

“現状維持は後退を意味する”
ただし。
背骨を太くした場合を除いて。
使い古された言葉に
真っ向から中指を突き立てた新指揮官に
我々も賭けてみたいと思う。

記者プロフィール
この記事を書いた人
江刺伯洋

江刺伯洋(えさし はくよう)1971年3月1日松山市生まれ。
入社以来アナウンサーとして主にスポーツやラジオを担当。特にサッカー実況は少年からJリーグまで全カテゴリーをこなしてきた。
著書に愛媛FCのJ昇格劇を描いた「オレンジ色の夜明け」、「群青の航海 FC今治、J昇格まで5年の軌跡」がある。【現担当番組】DAZNのJリーグ中継(FC今治、愛媛FC)、ラジオ生ワイド「江刺伯洋のモーニングディライト・フライデー」(毎金曜午前07:15~11:09)など。

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