この親にしてこの子あり

オピニオン室

何の写真かわかりますか?
昨日、FC今治ホーム最終戦後の
引退セレモニーを終え
記者会見をこなした後でした。
チーム広報から
「実は(引退する)駒野選手自身から
メディアの皆さんに
お別れのプレゼントがありますので
お持ち帰りください」
と言われ振り返った机にあったものです。

ワールドカップ2大会出場の元日本代表ですよ!
プロ23年目41歳のレジェンドですよ!
スパイクを脱ぐと決めた直後の引退会見ですよ!
こちらが何かしなければならないのに
まさか駒野選手の方から
マスコミにこんなことをして頂けるとは…
その場にいた全員が
ビックリして言葉を失ってました。

長年スポーツ取材をしていますが
こんなプロ選手を観たことがありません。
プレーと同じで
最後の最後まで誰に対しても実直。
好きにならない人がいるはずもありません。

「引退を決意したのは先週の火曜日です。
理由はそれまで2試合連続で先発出場でしたが
いずれも途中で足がツッてしまった。
これではサイドバックとして90分出られないので」

これは先週水曜日のトレーニング風景です。
他の選手がミニゲーム中
一人ランニングをしてた駒野選手。
もちろん引退するなんて露知らず
ああ、これがベテランの調整法なのだなあと
なんとなく写真に収めました。

この時、既に引退を決意していたのですね。

ホーム最終戦は引き分けとなり
今季でのJ2昇格は無くなりました。

来シーズンからは
新スタジアム“里山スタジアム”に移行します。
なのでこのありがとうサービス.夢スタジアムでの
ラストゲームでもあり、
駒野選手の引退表明直後試合は
メモリアルな雰囲気の中で行われました。

駒野選手はこの日も先発出場。
昇格の可能性がギリギリ残っていたので
温情ではなく“戦力”としての出場でした。

試合後に行われた
ピッチ上での引退セレモニーでは涙でしたが
記者会見場ではご覧の様に
終始リラックスムード。

南アフリカのワールドカップでPKを外し
大粒の涙を流したのは誰もが知るエピソードです。
「悔しさはあったが
それでもサッカーが好きだったので。
子供達には“失敗を恐れないこと”
時間がかかっても前向きにすることが大事」
とメッセージをくれました。

もうひとつ。
皆の涙を誘ったのが
引退セレモニーでの11歳の息子さんから
の手紙朗読でした。
少し長いですがこれほど涙を誘った
言葉を聞いた事はなかったので
抜粋させて頂きます。

「パパへ、23年間お疲れ様でした。
いつもパパの試合を観ていました。
パパが引退すると聞いた時は涙が出ました。
僕の憧れの一番のサッカー選手だからです。
一番言われたのは
失敗しても立ち上がって
次に向かって努力しなさいと言われました。
パパのサッカー人生は誰も経験したのことのない人生で
誰よりも嬉しいことも辛いことも乗り越えてきました。
本当に凄いと改めて感じました。
だけど本当は幼稚園の頃から離れて暮らして寂しかったです。
これからは一緒にたくさんサッカーしたり
二人で旅行に行ったり、自転車に乗って公園に行きたいです。
最後に僕の憧れのサッカー選手、駒野友一選手
日本の為に戦ってくれて、
感動を与えてくれてありがとうございました。
今治の皆さん、日本の皆さん
駒野友一を忘れないでください」
(南海放送「ニュースCh4」YouTubeで全シーン公開中)

実況席でまともに喋ることが出来ませんでした。
振り返るとスタッフが号泣していました。

恐らく中継を見た全お父さんも
同じ状態だったのではないでしょうか。

もちろん昇格した方がいいのですが
昨日の特別な時間をスタジアムで共有すると
それは小さなことのように感じました。

これで駒野選手と夢スタとはお別れです。
ですが2つのレジェンドは
ずっとクラブの一部であり続けます。
駒野選手と過ごした4年と
夢スタで味わった喜びや悔しさの6年。

私たちは
偉大な選手と偉大なスタジアムを
決して忘れることはありません。

記者プロフィール
この記事を書いた人
江刺伯洋

江刺伯洋(えさし はくよう)1971年3月1日松山市生まれ。
入社以来アナウンサーとして主にスポーツやラジオを担当。特にサッカー実況は少年からJリーグまで全カテゴリーをこなしてきた。
著書に愛媛FCのJ昇格劇を描いた「オレンジ色の夜明け」、「群青の航海 FC今治、J昇格まで5年の軌跡」がある。【現担当番組】DAZNのJリーグ中継(FC今治、愛媛FC)、ラジオ生ワイド「江刺伯洋のモーニングディライト・フライデー」(毎金曜午前07:15~11:09)など。

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